最新記事

米朝会談

まるで金正恩の代弁者だったトランプ 何より優先された会談の成功

2018年6月13日(水)18時00分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

ポンペオは、身を粉にして働くことになるだろう。会談終了後の共同声明は内容が乏しく、「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力する」と書かれていただけだった。

北の非核化に何度も挑戦したアメリカの元交渉担当者は、今回の声明は、クリントン政権下の「米朝枠組み合意」(1994年)やジョージ・W・ブッシュ大統領時代の「6カ国協議」(2005年)よりはるかに弱いと指摘した。どちらの交渉でも、北朝鮮は核開発の休止を「確約」したが、どちらも失敗に終わった。
 
「完全な非核化」に向けて漠然と努力することは、条件をはっきり明示した「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」をすることとは具体性が違う

「完全な非核化」は、「CVID」への北の反発を予想して会談前にポンペオが作った言葉だが、会談後も政権の目標とされている。記者会見でトランプは、北朝鮮の非核化の進展を検証するために、アメリカとその他の国際査察官を「組み合わせ」で派遣すると述べたが、それをすぐに実現するための予定表はない。

首脳会談前の米政界の噂では、政府は非核化の期限を2020年としたがっていたが、トランプは「科学的に非核化には長い時間がかかる」と主張し、北朝鮮にかなりの余裕を与えたようだ。

戦略的な核廃棄がこれほどいい加減でいいはずがない。

昔ながらの関係に戻る

北朝鮮が本気で非核化に取り組むとは思わない懐疑派にとってありがたいことに、北朝鮮が核廃棄を完了したことを確認するまで、経済制裁を継続するとトランプは述べた。それは少なくとも、ポンペオの今後の交渉材料になるだろう。

シンガポールでの米朝会談は、リアリティ番組のスターとしてはふさわしい見世物だったかもしれない。だが現実はあんなものではない。「アメリカと北朝鮮とは、昔ながらの荒っぽい、山あり谷ありの関係に戻る可能性が高いと思う」と、グリーンは言う。

トランプとしては、ありがたくない話だ。

(翻訳:栗原紀子)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中