最新記事

朝鮮半島

日本外しを始めた北朝鮮──日朝首脳会談模索は最悪のタイミング

2018年3月23日(金)17時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

金正恩氏との面会を終え帰国した韓国大統領の特使たち(2018年3月6日)Song Kyung-Seok-REUTERS

中露が唱えてきた「双暫停」対話路線に基本的に沿い、米韓との首脳会談を控える北朝鮮は、専ら日本を敵視し日本批判を激化させている。このタイミングで日本が日朝首脳会談を模索するのは最悪のタイミングだ。

北朝鮮の激しい日本批判

3月16日、17日と、関西大学の李英和(リ・ヨンファ)教授から北朝鮮の内部情勢に関する知らせがあった。北朝鮮の労働新聞が連日のように日本批判記事を書いているとのこと。それも写真付きの慰安婦問題に関する署名記事で、タイトルは「日帝野獣たちの特大型反人倫的罪悪を満天下に告発する」という激しいものだ。

もともと2月27日に韓国は「三一節(3月1日、独立運動記念日)」99周年行事を行うに当たり、慰安婦の証拠映像を公開していた。 ソウル市とソウル大学人権センターが開いた日韓中の共催による「日本軍慰安婦国際カンファレンス」でのことだ。それは1944年9月15日に中国雲南省騰沖で米中連合軍・米164通信隊撮影中隊が撮影したものだと、中国では盛んに報道されていたので、このこと自体は把握していた。中央テレビ局CCTVでも、18秒間ほどの動画がくり返し報道された。

しかしハングルが読めない筆者にとって、李英和教授からの現地のナマの情報提供は非常にありがたい。

今さらの対話路線――日本にとって最悪のシナリオ

中露が早くから「双暫停(北朝鮮とアメリカは双方とも暫時軍事行動を停止して、対話のテーブルに着け)」という基本戦略で動いてきたことは、これまで幾度となく述べてきた。経済的に北朝鮮の首根っこを押さえている中国に対して、北朝鮮は唯一の軍事同盟国としても、一定程度、中国の意向に沿わなければ不利になる。そこで従うのは従ったが、しかし「すべてお前の言う通りにはしない」という意味で金正恩委員長は「半島問題は朝鮮民族によって解決する」と、中国に一矢を報い、対話路線への主導権を握った。

これまで日本はひたすら「圧力を最大限強化する」という方針を強く打ち出してきたというのに、北朝鮮が韓国との対話のみならず、アメリカとの対話を実現しようとし、トランプ大統領が金正恩との対話に積極的な姿勢を見せた途端、日本もまた突然「北朝鮮との対話を模索する」というのは、最悪のシナリオだ。

日本はよもやトランプがここに来て突然、米朝会談に前のめりになるとは思ってもみなかったのだろう。

それは1971年7月のキッシンジャー元国務長官による忍者外交と72年2月のニクソン訪中に慌てた日本政府の動きを想起させる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FBI長官解任報道、トランプ氏が否定 「素晴らしい

ビジネス

企業向けサービス価格10月は+2.7%、日中関係悪

ビジネス

アックマン氏、新ファンドとヘッジファンド運営会社を

ワールド

欧州議会、17億ドルのEU防衛産業向け投資計画を承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中