最新記事

中東外交

サウジとロシアが急接近、中東から締め出されるアメリカ

2017年10月5日(木)19時40分
ベッカ・ワッサー(米シンクタンク、ランド研究所アナリスト) 、ハワード・J・シャッツ(同ランド研究所シニアエコノミスト)

初の訪ロでモスクワに降り立ち、儀仗兵の出迎えを受けるサウジアラビアのサルマン国王 Sergei Karpukhin-REUTERS

<親米国サウジアラビアのサルマン国王が初めてロシアを訪問、エネルギー分野などで協力を強化する。これはアメリカの指導力に不満を持つ国々からのメッセージでもある>

サウジアラビアのサルマン国王は今週、サウジ国王として初めてロシアを公式訪問し、プーチン大統領と会談する。

サルマンの訪露は、2国間関係を改善する転機になる。ロシアとサウジアラビアは、内戦終結後のシリアをめぐって意見が対立しており、サウジアラビアは、ロシアが敵国であるイランに接するのを不快に思ってきた。

サルマンとプーチンの会談で、シリア情勢など差し迫った問題が議題に上るのは確実だが、何より注目すべきは、両国が締結する一連の経済協定だ。

これらの協定は、中東全体を見据えたロシアの戦略構想を反映している。ロシアは経済協力を足掛かりに中東諸国と政治的な関係を強め、低迷する自国経済を立て直したい。中東でアメリカの影響力を削ぐ、というおまけ付きだ。

これはアメリカに対するメッセージでもある。アメリカの指導力に不満を持つ国々は、アメリカ以外の国を経済的、政治的、軍事的なパートナーに選ぶこともできる、国家間の関係は移ろいやすい、というメッセージだ。

脱原油で経済的利害も一致

ロシアは欧米諸国による経済制裁が始まって以降、ヨーロッパ諸国とアメリカ以外の国々に投資を求めてきた。なかでも湾岸諸国は前向きで、国内経済は苦境でも、価値の高い投資を呼び込むことに成功している。

サウジアラビアは政府系や民間の投資ファンドを通じて、ロシアのインフラや小売、物流、農業分野に100億ドル以上を投資している。

原油依存度が高いロシアとサウジアラビアは、原油価格の下落を受けて、エネルギー分野でも協力した。原油価格を安定させるため、2016年12月に原油の協調減産で合意。サウジアラビアが加盟する石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非加盟国による15年ぶりの協調減産を主導した。

サウジアラビアは今後、ロシアのエネルギー分野に投資する計画だ。

サウジアラビアはロシア製兵器の購入にも乗り気だ。サウジアラビアは主にアメリカとイギリスから兵器を購入しているが、報道によれば、今後ロシアから35億ドル相当の武器を調達する軍事協力の覚書に署名した。

一見、こうした取引はロシアにばかり有利なように見える。だがサウジアラビア政府にとっても、2030年までの脱石油・産業振興の道筋を示す構想「ビジョン2030」の一環として、国内の経済開発と近代化を目指すためには、またとない取引だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国民、「大統領と王の違い」理解する必要=最高裁リ

ワールド

ロシアの26年予算案は「戦時予算」、社会保障費の確

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ワールド

トランプ氏、豪首相と来週会談の可能性 AUKUS巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中