最新記事

バングラデシュ

ロヒンギャ取材のミャンマー人記者逮捕  バングラデシュ当局がスパイ容疑で

2017年9月22日(金)18時34分
大塚智彦(PanAsiaNews)

記者活動が危険な国バングラデシュ

RSFが発表している「世界の報道の自由度ランキング2017年」によるとバングラデシュは180カ国中146位と低い。

2015年8月7日、バングラデシュ人の男性ブロガーが殺害され、アルカイダ系のイスラム組織が犯行声明を出す事件が起きた。この男性はブログ上にイスラム原理主義を批判する文章を掲載しており、それが原因とされている。

また2016年4月25日にはバングラデシュ人男性の雑誌編集者が殺害されている。この編集者は同性愛者であることを公表し、同性愛者などへの差別撲滅を目指してLBGT(性的少数者)支援の雑誌の編集者を務めていた。

2009年1月から2015年4月末までに記者11人が殺害され、1093人が襲撃で負傷し、293人が脅迫を受け、18人が逮捕されたとの報告もある。

RSFやメディア監視団体「ジャーナリスト保護委員会(CPJ=ニューヨーク)」などによればバングラデシュは記者にとって活動が危険な国の一つとなっている。特に国教のイスラム教の規範に基づき同性愛や風俗、原理主義、宗教対立などに関わる報道はリスクが高いとされている。

報道が脅かされてはならない

今回はミャンマーからの避難民とはいえロヒンギャ族というイスラム教徒を取材するミャンマー人記者が逮捕されたわけで、これまでとはやや異なる事例だが、押し寄せる難民への困惑がバングラデシュ政府内にあり、それが資格外活動で取材するミャンマー人記者逮捕のつながったのかもしれない。「嫌がらせ」と「見せしめ」の両面あるのではないか、とみられている。

ミャンマー外務省はダッカの大使館を通じて2人との面会を求めている。面会が実現した場合は「自国民保護」の立場から法的支援の方策を探りたいとしているほか、2人に取材を依頼したドイツの雑誌社GEOも、早期釈放をバングラデシュ政府に働きかけている。

「RSF」アジア太平洋地区のダニエル・バスタード代表は地元メディアに対し「そもそもスパイ容疑を裏付ける証拠もなく、2人の記者は法律に触れるような犯罪行為は何もしていない。2人はロヒンギャの人々が置かれている実情を取材していただけである」としてバングラデシュ当局に対して公正な司法手続きに基づく対応と即時釈放を求めている。

人道上破滅的な危機を迎えつつあるといわれるロヒンギャの実情を世界に伝えるジャーナリストの役割が損なわれるようなことはあってはならない。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中