最新記事

中国外交

習近平「遠攻」外交で膨張する危険な中国

2017年6月6日(火)10時00分
楊海英(本誌コラムニスト)

さらに中国の脅威にさらされているのが「海のシルクロード」だ。中国海軍はインド洋と地中海を結ぶアフリカ東部のジブチで基地建設を進め、昨年11月には軍制服組のトップ、范長竜(ファン・チャンロン)中央軍事委員会副主席が視察する熱の入れよう。軍はパキスタンとギリシャの港湾にも触手を伸ばすなど、西方への「遠攻」もとどまるところを知らない。アメリカの中東政策の失敗でできた隙間を巧みに突いている。

「遠」と「近」の中間地点に位置する日本に対してはどうだろうか。中国当局は5月下旬になって、既に3月末に6人もの日本人を拘束したと発表した。彼らは中国の現地企業から依頼を受けて海南省と山東省で温泉探査の仕事をしていたところ、「国家の安全に危害を加える行為があった」として拘束。中国は15年にもスパイ行為を働いた疑いで日本人5人を拘束し、公判手続きも始まっている。

【参考記事】次に来るのは米中アルミ戦争

だが日中友好をあがめる日本外務省の官僚は「人質」解放に動く姿勢をなかなか見せず、日本では不満の声も多い。これと前後するかのように、習政権は自民党内屈指の親中派政治家、二階俊博幹事長を「熱烈歓迎」し、「一帯一路」構想への日本の参加を促した。親中派政治家には友好姿勢を示すことで、安倍晋三首相に対する「攻め」の態度との違いを演出したわけだ。

外交は自国の利益を最優先するゲームで、永遠の友も敵もない。中国の「遠交近攻」も本来、分裂と統一の歴史が生んだ現実主義のはずだ。だがそうした知恵を失った習政権は「遠攻近攻」に傾いており、その露骨な切り崩し外交に国際社会は警戒を強めている。

[2017年6月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中