最新記事

中国経済

中国の国境都市に見る「一帯一路」構想のアキレス腱

2017年5月13日(土)10時22分

5月10日、アジアと欧州を結ぶ新シルクロード経済圏構想「一帯一路」が正確に何を意味するかについて定義することの難しさは、今月14─15日に北京で開催される同プロジェクトの国際首脳会議で表面化するだろう。写真は同構想を描いた地図。香港で昨年1月撮影(2017年 ロイター/Bobby Yip)

中国吉林省にある琿春(こんしゅん)市の政策当局者らは2014年8月、その前年に発表されたアジアと欧州を結ぶ新シルクロード経済圏構想「一帯一路」に同市が含まれるべきだと国営メディア上で主張した。

国営新華社は2015年、琿春市が「一帯一路」構想をいかに加速させているかについて複数の記事を掲載。2016年初めに中国政府が発表した同構想に含まれる都市リストには琿春市も入っていた。

同リストの発表が遅かったこと、そしてリストに含まれるよう一部の都市がロビー活動の必要性を感じたという事実は、習近平国家主席の一大プロジェクトである同構想が野心的というだけでなく、計画が曖昧だという点も浮き彫りにしている。

「一帯一路」が正確に何を意味するかについて定義することの難しさは、今月14─15日に北京で開催される同プロジェクトの国際首脳会議で表面化するだろう。

「率直に言って、一帯一路が何なのか私には全く分からない。中国政府も分かっていないからだと思う」と語るのは、同構想について近著のあるガベカル・ドラゴノミクスのトム・ミラー氏。

企業や都市、国にとって、理論的には同構想に関わる動機は強い。スリランカからアフリカのジブチに至るまで、道路、鉄道、パイプライン、港、工業地帯の建設に巨額の投資が見込まれるからだ。

しかし琿春市の例が示すように、「一帯一路」構想の実情は複雑な可能性もあり、他国からの支援も必要とする。

琿春市がロシアと北朝鮮に接していることは、幸運でもあり災いでもある。ロシアが貿易に一段と門戸を開く一方、北朝鮮とは停滞している。

海に近くても、1860年の北京条約によるロシアの併合後は港を持たず、琿春市の企業は、中国や日本や韓国などの国々に向けた輸出拠点となっている北朝鮮の羅先(ラソン)特別市の港経由でもっと輸送したいと考えている。

そうなれば中国南部への航路が開かれることになるが、北朝鮮に対する制裁が実施され、同国の武器開発を巡り国際的緊張が高まり、羅先の開発も遅れるなか、その進展への期待は低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FBI長官解任報道、トランプ氏が否定 「素晴らしい

ビジネス

企業向けサービス価格10月は+2.7%、日中関係悪

ビジネス

アックマン氏、新ファンドとヘッジファンド運営会社を

ワールド

欧州議会、17億ドルのEU防衛産業向け投資計画を承
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中