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米中関係

「トランプ・習近平」電話会談は、なぜ安倍首相訪米に合わせたのか?

2017年2月13日(月)06時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

しかしそれなら、何も安倍首相の訪米に、ここまでピッタリ合わせる必要はないだろう。だとすれば、安倍首相訪米に敢えてタイミングを合わせた目的は何だろうか?
可能性としては以下のことが考えられる。

1.「対中強硬路線だけではありませんよ」という姿勢を安倍首相に見せて、貿易赤字問題で日本から譲歩を引き出そうとする。というのは、米商務省が2月7日に発表したアメリカの昨年の(モノの)貿易赤字データによれば、中国がトップで3470億ドルと全体の46%を占めているものの、中国の次に貿易赤字が多いのは日本。その日本から譲歩を引き出そうという可能性が一つある(経済対話フレームの窓口は日米両国のナンバー2)。

2.二つ目として考えられるのは、安倍首相との共同記者会見あるいは共同声明で「尖閣問題」に触れることは日米間で予め決まっていたので、中国にも良い顔をしておいて、パワーバランスを取るという目的だ。

いずれの場合であっても、いったい米中のどちら側が、そして誰が、このタイミングを狙い、かつ実現させたのか?

水面下で中国とつながっていた米財界人――「大統領戦略政策フォーラム」のシュワルツマン議長


実は習近平国家主席の出身大学である清華大学には「経済管理学院顧問委員会」という欧米の財閥を中心とした顧問委員会がある。これは同大学の出身である朱鎔基元首相(国務院総理)が2000年に設立させたもので、もともとは90年代後半に朱鎔基首相が強力に推進していたWTO(世界貿易機関)に加盟するための経済貿易研究が目的だった。

顧問委員会の名誉主席は今も朱鎔基元首相だが、問題はアメリカの大手財界人が多数を占める顧問委員50数名の中に、トランプ政権の「大統領戦略政策フォーラム」の議長がいるということである。

その名はシュテファン・シュワルツマン(Stephen A. Schwarzman)。ブラックストーン・グループのCEOだ。シュワルツマンは蘇世民という中国語名を持っているほどの親中派。顧問委員にはゴールドマンサックスの元CEOで元米財政長官だったヘンリー・ポールソン(Henry M. Paulson, Jr.)など、多くの大手米財閥のトップが入っている。

そしてそれは同時に、トランプ政権の大統領戦略政策フォーラムのメンバーの一部なのでもある。たとえば米銀行最大手のJPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)も顧問委員会のメンバーであると同時に戦略政策フォーラムのメンバーでもある。フォーラムのメンバー16名はシュワルツマン氏とトランプ次期大統領の二人で選んだと、昨年12月4日の中国メディアは大々的に伝えている。

習近平国家主席らは、もちろん出身大学である清華大学にある経済管理学院顧問委員会メンバーとは親しい。特にシュワルツマン氏は「蘇世民書院(SCHWARZMAN SCHOLARS)」という、各界のトップリーダーを目指すグローバル人材養成機関を清華大学の中に設立している。昨年9月10日の開学式典には、習近平国家主席が祝電を送ったことを、中央テレビ局CCTVや新華網などが一斉に伝えた。二人の仲は実に親密だ。

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