最新記事

世界秩序

「トランプとプーチンとポピュリストの枢軸」が来年、EUを殺す

2016年12月6日(火)19時00分
フレドリック・ウェスロー(欧州外交評議会、上級政策研究員)

 トランプが大統領選を制したことは、欧州のポピュリストたちにとって「もはやあり得ないことはない」という証になった。世論調査や市場や専門家の予測を物ともせず、トランプはアメリカに蔓延していた不満につけ込み、既成政党(共和党)をハイジャックし、「反エスタブリッシュメント」の側として勝利を手にした。

 欧州のポピュリストにとって、トランプの勝利は自分たちへの刺激や自信になっただけでなく、最高権力と手を組む可能性も意味する。大統領の座を射止めてから数日後、トランプがニューヨークにあるトランプタワーの金ピカの自宅に招き入れたのは、ブレグジットを牽引した反EU政党、イギリス独立党のナイジェル・ファラージ党首代行だった。欧州の政治家で、大統領選後のトランプと会談したのはファラージが初めて。ダウニング街10番地(イギリス政府)には意も介さず、トランプはファラージを駐米イギリス大使に推したいと勝手に指名した。

【参考記事】トランプ氏が英国独立党党首ファラージを駐米大使に指名?──漂流する米英「特別関係」

 トランプと欧州各国のポピュリストとの連携は、単なる政治的な連帯を超越するかもしれない。トランプ政権で首席戦略官と上級顧問に就任する白人至上主義者スティーブ・バノンは、かねてからフランスのルペンに取り入る様子が報道されていた。さらに彼は来年実施されるフランスとドイツの選挙に先がけて、保守系ウェブサイト「ブレイトバート・ニュース」のフランス版とドイツ版を立ち上げようと画策している。すでにイギリス版はブレグジットの牽引に一役買った。

【参考記事】トランプの首席戦略官バノンは右翼の女性差別主義者

NATOも解体か

 ヨーロッパにおけるトランプの外交政策によってリベラルな政党は守勢に追い込まれ、ポピュリストの思う壺になるだろう。トランプはロシアと取引を成立させたい願望が見え透いており、米政府によるヨーロッパの安全保障政策を格下げ、もしくは同盟の破棄にすら前向きな姿勢を見せていることから、NATOが骨抜きにされる可能性がある。

 そうなればヨーロッパ連帯の基礎が根本的に傷つけられ、欧州各国がNATOに替わる安全保障協定を奪い合ったり新しい政策を強要されたりすれば、欧州の構成国としての各国の不和が一層悪化する。

 トランプのアメリカと、プーチンのロシア、ヨーロッパのポピュリスト政党で構成される新たな枢軸は、リベラルなヨーロッパにとって毒のような組み合わせだ。リベラルな秩序を守るために立ち上がるなら、今しかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで14人負傷、ロシアの攻

ビジネス

アマゾン、第1四半期はクラウド部門売上高さえず 株

ビジネス

アップル、関税で4─6月に9億ドルコスト増 影響抑

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中