最新記事

中国経済

デフォルト容認めぐり二転三転する中国当局、債券市場は不安定化

2016年9月7日(水)10時10分

 9月6日、中国政府は大手国有企業のデフォルト(債務不履行)を容認するかどうかについて市場に相反するメッセージを発信しており、こうした一貫性のなさに債券市場が振り回される結果となっている。写真は中国の国旗。北京で3月撮影(2016年 ロイター/Kim Kyung-hoon/File Photo)

中国政府は大手国有企業のデフォルト(債務不履行)を容認するかどうかについて市場に相反するメッセージを発信しており、こうした一貫性のなさに債券市場が振り回される結果となっている。

中国の債券市場は、政府はデフォルトを容認せず、発行体は事実上政府の保証を受けているという前提で回ってきた。

政府は2014年以降、こうした認識を修正しようと慎重な取り組みを進めており、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)や債務の証券化といった市場寄りの仕組みの導入を計画している。

しかし強硬な政策を一歩進めるたびに、国有企業のデフォルトが既に落ち込んでいる投資を損なったり金融の安定を脅かしたりするのではないかとの不安から取り組みを後退させているようにみえる。

中央銀行と規制当局は今年4月、主に石炭や鉄鋼など長期にわたり赤字が続いている産業から資金を引き揚げ、資金供給を圧縮するよう金融機関に促した。このため投資家がデフォルトのリスクを織り込みに動き、発表から10日間で短期債の利回りは30ベーシスポイント(bp)以上も上昇した。

しかし6月下旬になると債券市場は再び上昇し始めた。利回りを求める投資家が買いを入れたためだが、国有企業のデフォルト容認について政府の姿勢に変化の兆しが見えたことも一因だ。

政府の変節ぶりは8月に入ると一層明確になった。毎日経済新聞は8月初旬、中国銀行業監督管理委員会(CBRC)は銀行に対し、企業への融資を安易に打ち切ることはせずに、可能ならば期限を延長したり再融資を行うよう要請した。

この直後に陝西省の銀行監督当局は省内の大手石炭企業7社の短期債務借り換えを認めた。さらに8月下旬には財新伝媒が、300億ドル近い債務を抱える渤海鋼鉄集団が天津市から低金利の資金供給を受けられる見通しだと報じた。

4月から8月にかけてデフォルトを巡る政府の姿勢が変化したこともあり、債券相場は大幅に上昇。ダブルA格付けの1年物の社債の中国国債に対するリスクプレミアムは2009年以来の幅に縮小した。

政府の支援で生き延びている「ゾンビ企業」など国有セクターの縮小は、経済の効率性を高めて民間セクターを育成する上で不可欠だ。

しかし当局は企業の破綻で投資家が混乱し、債券市場の安定が損なわれるリスクを考慮し、政策が迷走している。

ムーディーズのシニアアナリストのニコラス・チュー氏は「短期的な安定性と長期的な構造改革の間で綱引きの状態になっている」と指摘。「方向性ははっきりしているが、政策を十分な速度で実行して投資家の信認を獲得できるかどうかが課題だ」とした。

(Nathaniel Taplin、Umesh Desai記者)



[上海/香港 6日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英失業率、8─10月は5.1%へ上昇 賃金の伸び鈍

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏

ワールド

25年度補正予算が成立=参院本会議

ビジネス

EU、35年以降もエンジン車販売を容認する制度検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中