最新記事

英EU離脱

ブレグジットで泣くのはEUだ 欧州「離婚」の高すぎる代償

2016年8月24日(水)15時30分
ハリー・ブロードマン(本誌コラムニスト)

 法的な面では、多くの国際金融契約が長年、イギリス系の英米法に基づいており、英語で表記されている。これらの制度や慣行が大幅にフランスやドイツなどヨーロッパ大陸系の大陸法に移行することになれば、弁護士は仕事が増えて大喜びだろうが、企業は相当な負担を強いられるだろう。

信頼不足はむしろユーロ

 最後に、イギリスは今後も世界の主要な金融センターであり続けるはずだ。世界の1日のデリバティブ(金融派生商品)取引高は9兆4000万ドル、その43%がロンドンで行われている。しかも英ポンド建てではない。実はイギリスではドイツとフランス(経済規模はそれぞれ世界第4位と第6位)を合わせた額の4倍に上るユーロ建て取引が行われている。

【参考記事】英議会、2度目の国民投票について9月に議論

 最近の報道によれば、オランダのアムステルダムやドイツのフランクフルトなど、EU加盟国の一部は、早くもロンドンからの企業の誘致に乗り出しているらしい。その戦術が裏目に出る可能性も十分ある。

 EUの経済成長にとって「金の卵を産むガチョウ」のロンドンがつぶれれば、後悔するのはEUだ。むしろギリシャやスペイン、ポルトガルを考えれば、EU全体の大規模な構造改革が実現しない限り、ユーロが機関投資家の信頼を得られるかどうか怪しいものだ。

 イギリスは今もこれからもヨーロッパの一部だ。距離にしてほんの30数キロ。これが地理的な現実だ。従って双方が引き続き共存の道を探らなければならないだろう。

 離婚しても家計は1つで、というのは虫がよ過ぎる。

[2016年8月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米軍が「麻薬密売船」攻撃、太平洋側で初 2人死亡=

ビジネス

NY外為市場=英ポンド下落、ドルは対円で小幅安

ビジネス

テスラ、四半期売上高が過去最高 税控除終了前の駆け

ワールド

「貿易システムが崩壊危機」と国連事務総長、途上国へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中