最新記事

内戦

シリア反体制派の拠点アレッポに迫る人道危機

2016年8月4日(木)17時30分
リチャード・ホール

Ibrahim Ebu Leys-Anadolu Agency/GETTY IMAGES

<シリア反体制派の拠点都市アレッポで、アサド政権側の政府軍の攻勢が激化している。市街地には30万人を越える住民が残っているが、多くの住民は脱出を考えることもできないほど追いこまれている>

 シリア北部の主要都市アレッポの東部は、アサド政権側に包囲されている。市街地は連日の空爆にさらされ、住民は恐怖と飢餓に苦しんでいる。

 それでも、多くの住民は逃げようとしない。「誰も逃げることなんて考えない。考える余裕がないほど追い込まれているんだ」と、反政府活動家のアフマド(仮名)は言う。

 シリア政府軍はロシア軍による空爆の支援を受け、反政府側の拠点に向けて進軍を続けている。アレッポ東部に残る住民は約30万人。抵抗を続ける反政府武装勢力の戦闘員は数千人だ。

【参考記事】地獄と化すアレッポで政府軍に抵抗する子供たち

 ロシアのショイグ国防相は、シリア政府と共にアレッポの民間人を救出する「大規模な人道作戦」を開始すると宣言した。だが政府軍が公開した動画には、東部のバニーゼイド地区に進入する戦車が映っていた。

 アサド大統領は、今後3カ月以内に武器を捨てた武装勢力の戦闘員に恩赦を与えると発表した。だが反政府側地区の住民には、選択肢は2つしかない。政府軍に捕まる危険を冒して脱出するか。それとも今いる場所にとどまり、飢えに直面するか。

 アレッポ東部の状況は7月に入って大きく悪化した。唯一の補給ルートを政府軍が断ったからだ。EUは、「既に多大な被害をもたらしている(シリア)紛争の中でも最大の人道的悲劇」になりかねないと警告した。

【参考記事】シリア軍の包囲網のなかで住民は霞を食べている?

 シリア政府軍の進撃は、反政府武装勢力にとってよくないニュースだ。かつてシリアの工業の中心地だったアレッポは、4年間にわたりアサド政権打倒を目指す戦いの重要拠点だった。だがロシアが内戦に介入すると、シリア北部は激しい空爆にさらされ、その隙に政府軍は支配地域を拡大していった。

 シリアの最大都市アレッポを失うことは、多様な武装勢力の寄り合い所帯である北部の反政府派にとって手痛い打撃になる。

From GlobalPost.com特約

[2016年8月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英米が420億ドルのテック協定、エヌビディア・MS

ビジネス

「EUは経済成長で世界に遅れ」 ドラギ氏が一段の行

ビジネス

独エンジニアリング生産、来年は小幅回復の予想=業界

ワールド

シンガポール非石油輸出、8月は前年比-11.3% 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中