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階層、意思決定、時間感覚......インド事業の文化の壁

2016年4月6日(水)17時58分
ニヒル・ラバル ※編集・企画:情報工場

ヒンディー語の「kal」は「明日」と「昨日」を意味する

「インドは輝いている」が誇大表現だとしても、インドにはたくさんの「成功するためのポケット」が存在する。だが障害物も数知れない。

 インドのジョークに「一度法廷に足を踏み入れたら、(その訴訟は)孫の代まで続く」というものがある。インドでも銀行などには、しっかりとした厳しい規制の仕組みがつくられている。それは2008年の金融危機の際に国家を維持するのに貢献した。しかしながら、インドの法体系には、ビジネスに公平な機会を保証しない側面もある。

 インドでは契約書の内容をそのまま信じるわけにはいかない。インドの人々の多くは「あらゆることはその時々の事情があって起こる」と考えがちで、それが意思決定やプロセス決定に大きな影響を与えるからだ。最終決定に至るまでには、さまざまな権限をもつ人たちが関わるために時間がかかるのが普通だ。

 予定より遅れるのは当たり前。とくに政府が絡む仕事では顕著だ。先日私は、太陽光発電で航行する飛行機の世界初飛行をインド国内の着陸スポットまで見に行った。たくさんのメディアで取り上げられた鳴り物入りのイベントだったが、その日は見ることがかなわなかった。それどころか1週間経っても飛行機は一向に飛ばない。多くの人は雨のせいで飛ばないのだと思っていたが、遅れの真の理由は別のところにあったようだ。書類作成に手間と時間がかかり、当初のスケジュールを意味のないものにしてしまったのだ。税務当局が問い合わせの回答に1年かかった例もある。

 ヒンディー語の「kal」という単語は、「明日」と「昨日」の両方を意味する。インド人の時間のとらえ方は独特だ。欧米の考え方では、時間は一本の線のように流れる。物事は始まりから終わりまで、ロジカルに進行する。ところがインド人にとっての時間は、日常生活に適合させるために"曲げられる"ものだ。アポイントや締切は流動的なものと考えた方がいい。インド人は、平気で遅刻したり、話が脇道にそれたり、突然会いたがったり、好きなだけ時間をかけてもいいと言ってきたり、プロジェクトに余分な時間をかけてもそれを大したことないと捉えたりする。こうしたことに慣れ、忍耐力を養うことができれば、フラストレーションを避けることができるだろう。

[執筆者]
ニヒル・ラバル Nikhil Raval
インド・アフマダーバードにあるDuke Corporate Educationの代表取締役社長。ミシガン州立大学で金融学、カリフォルニア州立大学で戦略的経営学を学び、アメリカン・エキスプレス、チャールズ・シュワブ等を経て、現職。

© 情報工場
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※当記事は「Dialogue Q1 2016」からの転載記事です

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情報工場
2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、エグゼクティブ向け教育機関で世界一と評されるDuke Corporate Educationが発行するビジネス誌『Dialogue Review』や、まだ日本で出版されていない欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約6万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.joho-kojo.com/top

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