最新記事

難民

その難民はなぜ死んだのか、入管収容所の現実

2016年3月9日(水)10時52分

 しかし、法相がこれに回答したのは8カ月経った昨年7月。「改善を求められている事項についても、従来から既に実施している事項であり、勧告を受けて改めて改善措置を講じた事項はありません」とする極めて簡素なものだった。


 「法務省の体質を考えると、(死亡事案の詳細が)闇に葬られる可能性はあると思う」と元視察委員の廣瀬理夫弁護士は憂慮する。

 旅行会社を経営し、敬虔なカトリック信者でもあったニクラスは、日本への出発前、教会に一晩中こもって熱心に祈りをささげた。そして、妻マグレットに「帰って来るまで子どもたちの面倒をみてくれ」と言い残していったという。

 スリランカ西部のチラウにある自宅には、いま同氏の遺影が置かれている。ロイターの取材に対し「今でも彼の声が聞こえる。彼なしで幸せはこない」とマグレットは涙を流した。

 法務省は遺族に対し、遺体の解剖結果を口頭で説明したとしている。しかし、ニクラスの急死から1年3カ月が経過した今も、それ以上の詳しい説明は遺族に届いていない。

 昨年3月に法務省がまとめた「東京局におけるスリランカ人被収容者死亡事案に関する調査結果報告」と題する文書がある。ロイターが行政文書開示請求で入手した同報告書は、A4サイズ4枚の分量。しかし、「処遇(健康状態の確認)状況」「死亡に至る経緯」「外部医師による意見」「問題点」という肝心の項目は全て黒く塗りつぶされていた。

(文中、敬称略)

(Thomas Wilson、宮崎亜巳、舩越みなみ、斎藤真理 取材協力: Shihar Aneez、Antoni Slodkowski 編集:北松克朗)

[北京 25日 ロイター]

120x28 Reuters.gif
Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 9

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 10

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中