最新記事

中東

パレスチナ人の一斉蜂起「インティファーダ」は防げるか

2016年2月3日(水)16時00分
ベン・リンフィールド

 それでもデモはきっとまた起きると、デモに加わった建設請負業者のハレド・ザワフレは言う。PLO(パレスチナ解放機構)傘下の左派組織・パレスチナ解放民主戦線の活動家でもあるザワフレに言わせれば、アッバスは「インティファーダの敵」だ。12月30日にも別のPLO傘下組織の活動家らの呼び掛けで数百人がベイトエルに向かってデモ行進を試みた。参加者にはPLO主流派でアッバスが率いるファタハ支持者もいた。暴力沙汰にはならなかったものの、デモ隊はやはりパレスチナの治安部隊に追い返された。

 こうした介入が続けばアッバスの支持率低下は加速しそうだ。12月の支持率は35%と、半年前の44%から急落した。同月のPSRの調査でも、パレスチナ人の3人中2人がアッバスは退陣すべきだと考えている。議長としての正統性の問題もある。アッバスが議長に選出されたのは05年1月で任期は09年に切れている。しかしパレスチナはファタハが実効支配する西岸とイスラム過激派組織ハマスが実効支配するガザ地区とに分裂したままで、選挙の見通しは立っていない。

 前任者のヤセル・アラファトは歴戦の勇者でけんかっ早いところがあったが、アッバスはどことなく学者風で感情を表に出さない印象だ。社会不安について公の場では短い発言しかせず、自治政府の長というより政治コメンテーターのようだと、パレスチナの政治評論家ハニ・マスリは言う。

 アッバスは新たな蜂起は望んでいないと、ニムル・ハマド自治政府議長補佐官は主張する。「インティファーダはパレスチナ人の利益にならず、いかなる和解にもつながらない。われわれは交渉による紛争解決を望んでいる」

「弱腰」批判に反論も

 最近はファタハ内部からも、イスラエルとの対決姿勢を強めるべきだという突き上げがある。

 アッバスはイスラエル軍との治安協力を停止するという昨年のPLO中央評議会の決議を守るべきだと、ファタハのナイム・ムラルは言う。西岸のユダヤ人入植地で製造・栽培されたものだけでなく、すべてのイスラエル製品に対する不買運動を承認し、イスラエルの指導者たちを戦犯として国際刑事裁判所で裁くよう強く要求すべきでもある、とムラルは主張する。「ファタハの政治的立場は蜂起の動きと一致させるべきだ」

 マスリも同じ意見だ。「アッバスは発言も行動も指導力を発揮することもしない。枝葉末節の問題にあくせくしている」。マスリによれば、「指導部は袋小路に迷い込んでいる。何をすべきか途方に暮れている。住民に進むべき道を示せるような有効な計画を打ち出せていない。住民は各自の判断で行動するしかない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドルが急落、156円後半から154円後半まで約2円

ビジネス

為替、基調的物価に無視できない影響なら政策の判断材

ビジネス

訂正野村HD、1―3月期純利益は前年比7.7倍 全

ビジネス

村田製の今期4割の営業増益予想、電池事業で前年に5
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中