最新記事

難民危機

ISISを恐れるあまり難民に過剰反応するな

過激派の流入が見過ごされている可能性はあるが、恐怖をあおる右派にくみするべきではない

2015年9月17日(木)17時00分
マイケル・カプラン

怖いのもわかるが ハンガリーに入国しようとして警官に囲まれた難民の男性 Marko Djurica-REUTERS

 シリア難民の流入が続くヨーロッパでは、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の戦闘員がこの難民の波に紛れ込んでいるのではないかという不安が再燃している。

 右派のイギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージュ党首は今月初め、過激派がEUに入り込む「恐れがある」と警告。「(難民に)同情するあまり自分たちの安全を危険にさらしてはならない」と訴えた。

 しかし、国境警備の強化が求められるとはいえ、難民に対する警戒心をことさらにあおるべきではないと、専門家たちは指摘する。むしろ難民危機の政治利用をもくろむ反移民派に目を光らせる必要があるという。

「難民危機と、ISISがヨーロッパに密航している問題とを一緒くたにしていいものか」と、米オハイオウェズリアン大学のショーン・ケイ教授(国際関係)は疑問を呈する。「人道危機を政治的に利用しようとする人がいることは残念だ」

密航には難民と同じ船で

 ここ数カ月、大勢のシリア難民が安全とより良い生活を求めてヨーロッパを目指している。シリア内戦で家を追われた人は約1100万人。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、シリアをはじめとする中東やアフリカから今年だけで既に38万人以上が地中海経由でヨーロッパに到達したという。

 この中に過激派が紛れ込んでいるのではないかとの不安が生じているのは確かだ。

 1月には、ISISの工作員がニュースサイトのバズフィードに対し、既に4000人ほどの戦闘員がヨーロッパに入り攻撃の機会をうかがっていると語っていた。戦闘員の密航を手伝ったという密輸業者もこの主張を裏付け、密航には難民と同じ船を使ったと話した。

 ISISはこれまで欧米諸国を攻撃すると繰り返し脅してきた。反ISIS団体「ラッカは静かに殺戮されている」によれば、ISISは今年1月に英語を話す外国人部隊「アンワル・アル・アウラキ・バタリオン」を組織したらしい。目的はもちろん、英語圏での攻撃だ。
組織名の由来となったアウラキは、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)の幹部にまで上り詰めたアメリカ人。11年に潜伏中のイエメンでアメリカのドローンに攻撃され死亡した。

 難民の流入が問題になる以前、最も恐れられていたのは、ISISに共感して過激派になったヨーロッパ生まれのテロリストたちだった。ロンドンのシンクタンク「過激化研究・政治暴力国際センター」の1月の報告によると、ISISなどのスンニ派過激派組織に参加する外国人は2万人を超え、その約5分の1がヨーロッパ出身者とされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ペプシコの第1四半期決算、海外需要堅調で予想上回

ビジネス

仏ケリング、上期利益が急減の見通し グッチが不振

ワールド

トランプ前米大統領、麻生自民副総裁と会談=関係者

ワールド

北朝鮮「圧倒的な軍事力構築継続へ」、金与正氏が米韓
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中