最新記事

米中関係

まれに見る「不仲」に終わった米中首脳会談【習近平 in アメリカ③】

2015年9月28日(月)17時00分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 実は8月20日から28日まで、中国はロシアとともに中露合同軍事演習をおこない、ウラジオストックで閉幕式を開催した。この合同演習は習近平政権になってから5回目で、通常の軍事演習の一環だった。

 閉幕式のあと、中国海軍の5隻の艦船が二つのルートに分かれて帰国し、一部は米国のアラスカ州沖のベーリング海の公海上を航行して帰国した。狭い海峡を渡るため、その際、アリューシャン列島の海岸線から12海里の米国領海内を抜けた。

 国際法では、「他国の領海内でもその国の平和や秩序、安全を害さなければ艦船で航行する権利(無害通航権)」を認めている。

 米国国防総省は、「今回の航行は、この無害通航権に当たる合法的な通過で、そのまま太平洋に入って帰国している」として、「問題なし」と結論付けた。その旨、ウォールストリート・ジャーナルも報道している。

 米国が結論を出している「無害通航」を、日本のそのテレビ局の番組は、あたかも米中首脳会談を中国に有利に持って行くための威嚇であるかのように解説し、先般強行採決された安保法案にまで関連付けて報道した。

 いかなる目的でこのような扇動的な報道をしなければならないのか理解に苦しむが、われわれはこういう時だからこそ、世界で発生する事態を冷静に客観的に「事実」だけを見抜いていく努力をしなければならない。

 中国は2013年5月に「北極理事会」のオブザーバーとして参加している。そこにはエネルギー資源がある。その探査に興味を持ったとしても、習近平訪米のために、ベーリング海を通過したことが、「米国に対する軍事的威嚇」になり得ると考えるのは、あまりに突飛なことだ。

 そもそも、中国がいま米国に勝てるような(威嚇できるような)軍事力を持っているか、よく考えてみるといい。米国には日米同盟があり、ロシアは中国と合同軍事演習はやっても軍事同盟を結んでいるわけではない。

 また中国の経済力に陰りが見えているからこそ、米国は強い態度に出ることができるのである。

 自省を込めてだが、発信者はミスリードをしないように心掛けたい。

[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベトナム共産党のラム書記長、国家主席を兼務 新首相

ワールド

26年度予算が成立、過去最大 参院審議で4月にずれ

ワールド

マクロスコープ:予算乗り越えた高市氏の「万能感」 

ワールド

自衛隊派遣めぐる月刊誌報道、「完全な誤報」=高市首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 5
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 6
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 9
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 10
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 9
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中