最新記事

ニュージーランド

NZ地震トラウマで家庭内暴力が急増

クライストチャーチのDV事件は被災後50%も増えている。被災のストレスが暴力を生むメカニズムとは

2011年3月1日(火)18時28分

脆くなる絆 被災家族の心も倒壊した建物のように壊れやすくなる Tim Wimborne-Reuters

 ニュージーランド・クライストチャーチ市の地元警察によれば、2月22日の大地震以降、市内では家庭内暴力(DV)事件数が50%以上増加した。

「原因は、先週火曜に起きた地震のストレスとトラウマであることは明らかだ。その後も続く余震が肉体的・精神的疲労を増幅させている」と、警察署長のデーブ・クリフはAFP通信に語っている。「だが、家庭内暴力はいかなる状況でも許されるものではない。個々のケースが最悪の事態に発展するのを防ぐことが重要だ」

 クライストチャーチを襲ったマグニチュード(M)6.3の地震で市街地の建物はことごとく崩壊。街のシンボルである大聖堂も一部崩れ落ち、電話回線は遮断され、空港も閉鎖された。死者は少なくとも154人に上り、現在も数百人が行方不明のまま。ニュージーランドのジョン・キー首相は、今回の地震は「ニュージーランド史上、最も悲劇的な出来事となるかもしれない」と語った。

 クライストチャーチでは昨年9月、M7.0の大地震が発生。その後も5000回以上にわたる余震で、住民の多くが精神的苦痛を負っていた。昨年9月以降、市内では自殺やストレス絡みの問題が増加したとの報告もある。今回の地震が被災者のストレスを増大させたことは間違いない。


自然災害の後には3倍になることも

 2月26日(土)午前4時35分から28日(月)午後2時半までに、市内の警察に通報されたDV事件は61件。昨年同時期の40件に比べ1.5倍に増加している。マッセイ大学(ニュージーランド)の研究者ロス・ホートンが地元で行った調査によれば、自然災害の際にはDVの発生件数が3倍に膨れ上がることもあるという。

「今のような状況では、家族関係や人間関係に途方もないプレッシャーと緊張が生まれる。人々の生活は危機的状況だ」と、クライストチャーチがあるカンタベリー地方の保健局長デービッド・メイツはAFP通信に語った。「精神的な限界点ぎりぎりになると、普段はやらないことをやってもおかしくない。確かにDVが目立つようになる」

 しかし被災後の女性たちには、大変な時期を家族で乗り越えるために暴力的なパートナーの元に帰るべきだというプレッシャーがかかる。それは彼女たちにとって危険なことだ――DV被害女性の支援団体「ウイメンズ・レフュージ」(クライストチャーチ)のアネット・ギレスピーは警告している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ポーランド、最後のロシア総領事館閉鎖へ 鉄道爆破関

ビジネス

金融規制緩和、FRBバランスシート縮小につながる可

ワールド

サマーズ氏、オープンAI取締役辞任 エプスタイン元

ワールド

ゼレンスキー氏、トルコ訪問 エルドアン大統領と会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中