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ポーランド

凄惨「ユダヤの日記」を返せ

ナチスによる迫害の衝撃的な光景をつづったユダヤ人の日記を、遺族と政府が奪い合っている

2010年9月28日(火)15時58分
ジャン・シエンスキ(ワルシャワ)

 ポーランドで、第二次大戦中に迫害されたユダヤ人が記したある日記をめぐり、政府と筆者の遺族の静かな戦いが続いている。

 日記を書いたのは、43〜44年にポーランドで潜伏生活を送ったバルフ・ミルヒという男性。62冊に上る日記には、衝撃的な光景が描かれている。ユダヤ人の母親から赤ん坊を取り上げて蹴り殺した後、その母親にブーツに付いた血を拭かせるナチス親衛隊員。泣き声で居場所を知られないよう、3歳の息子の口を塞いで殺してしまい、半狂乱で自分の髪の毛をむしり取るミルヒの義理の兄弟。

 戦争を生き抜いたミルヒは、46年にパレスチナへ移住した。日記はポーランドのユダヤ史委員会に託され、その後は人知れず埋もれていた。だが88年に存在が明らかになると、歴史的価値が認められて首都ワルシャワのユダヤ史研究所に移された。ミルヒは89年に死亡した。

 ミルヒの娘でイスラエルの作曲家エラ・ミルヒシェリフは、ポーランド政府に日記の返還を要求。父親が日記を託したのは、明日どうなるかも分からない状況で日記を守るためだったと主張する。

 だが当局側は日記を返す気はなさそうだ。たとえ裁判でエラの所有権が認められても、貴重な歴史文書の国外移送は法律で禁じられているとして断固拒否する構えだ。

GlobalPost.com特約)

[2010年9月29日号掲載]

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