最新記事

イラン

核物理学者の爆殺は政府の口封じか

イラン政府はイスラエルとアメリカの仕業だと主張するが

2010年1月20日(水)14時27分
ババク・デガンピシェ

 混迷が続く中東で1月12日朝8時頃、とてつもなく奇妙な事件が起きた。テヘラン大学で核物理学を教えるマスード・アリ・モハマディ教授が、テヘラン北部にある自宅の外に仕掛けられた爆弾で死亡した。バグダッドやカブールでなら珍しくはない事件でも、イランで暗殺テロ、それもオートバイに隠した爆弾を遠隔操作で爆破させることなどめったにない。

 事件後すぐに、イラン外務省の報道官は核開発阻止を狙ったイスラエルとアメリカの仕業だと主張した。だがオバマ政権はアメリカの関与をきっぱりと否定。イラン革命防衛隊系のファルス通信は反体制派グループが犯行を認めたと報じ、殺されたモハマディは信心深い男で、6年前まで革命防衛隊に協力していたとも伝えた。

 一方で、複数の反政府系ウェブサイトはモハマディが、昨年6月の大統領選で改革派のミルホセイン・ムサビ元首相への支持を表明したテヘラン大学の教員420人に名前を連ねていたと指摘。モハマディの元教え子は「(モハマディは)あらゆる面で改革派だった!」と書き込んだ。この教え子は、モハマディが大統領選後に反政府デモに参加するよう学生たちに呼び掛け、小型バスまで用意した様子を伝えている。これらのサイトは、モハマディが核計画ではなく政治思想のせいで殺されたと示唆している。

青ざめる反体制派の教員たち

 ニューヨーク・タイムズによると、モハマディの専門は素粒子物理学と理論物理学で、核爆弾の製造につながるものではないという。イラン原子力庁も、モハマディの核計画への関与を否定した。

 それでも、もしモハマディが核計画に関わっていたとしたら、彼の暗殺はイランの核計画関係者に情報を漏らすなという警告になったはずだ(彼が実際に改革派だったのなら、情報漏洩の可能性があると思われてもおかしくない)。

 モハマディの死にテヘラン大学の教員たちは青ざめている。テヘラン大学ではモハマディが死ぬ1週間前、教授88人が最高指導者アリ・ハメネイ師に対し、反政府デモへの暴力的な弾圧をやめるよう求める公開書簡を反政府系サイトに投稿していた。今回の暗殺事件を受けて、同じような書簡が出されることはなくなるだろう。

[2010年1月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋

ビジネス

投資家がリスク選好強める、現金は「売りシグナル」点

ビジネス

AIブーム、崩壊ならどの企業にも影響=米アルファベ

ワールド

ゼレンスキー氏、19日にトルコ訪問 和平交渉復活を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中