最新記事

政治

郵便局員が率いる「共産主義」革命

激動の時代に立ち上がった34歳の革命家が資本主義、グローバル化に反旗を翻す

2009年4月7日(火)15時52分
トレーシー・マクニコル(パリ支局)

最強の対立候補 昨年12月、パリでのデモに参加するブザンスノ
Benoit Tessier-Reuters

反資本主義の機運が高まるフランスで、サルコジ大統領の「最強の対立候補」として名乗りを上げたのは若き郵便局員。ヨーロッパ各地に広がる左派からの反撃の行方を追う。

 経済の激変や近代史上最悪の景気後退など一連のグローバル危機は大規模な惨状が続き、想像を超えることが次々に起こっている。歴史ある銀行が破綻し、市場は乱高下して、企業の救済が一夜で決まり、世界のあらゆる勢力の指導者はあわてて首脳会談を開き「資本主義を再考」している。

 世界は大混乱に陥っているが、フランス人は今さら動じることはない。彼らはグローバル社会のシステムに対し、ずっと疑念をいだいてきたのだから。

 フランス人は自分たちがグローバル化の恩恵にあずかっているときでさえ、かなり警戒してきた。危機に際して団結しようという政府の呼びかけをはねつけ、1月29日には全国で市民がデモを決行。社会システムが混乱するかなり前から政府が約束していた改革を、やめさせようとしている。

 イギリスの経済学者ケインズ卿が言う抑制のない「アニマルスピリッツ」を懐疑的にとらえるフランス人の根強い考えを今、世界も認めるようになった。フランス的思考が左派を大きく揺さぶるのも不思議ではない。

 実際、フランス社会は左派寄りの主流政党や、混沌として不明瞭で内部抗争の絶えない社会党を飛び越えて、革命的共産主義者同盟(LCR)の幹部で急進左派の旗手オリビエ・ブザンスノ(34)に目をつけた。トロツキーとチェ・ゲバラを愛するブザンスノは、レイオフ(一時解雇)の禁止や、最低賃金を3割増やして全国民が月300ユーロの収入増につながる支援などを要求している。

 銀行の国有化がアメリカやイギリスなど各国でにわかに現実味を帯びるなか、ブザンスノはさらに踏み込んだ政策を求める。銀行と保険会社を経営破綻かどうかに関係なく国が接収し、市民が運営する巨大な公的銀行サービスを設立しようというのだ。

 さらに、LCRの機関紙「ルージュ」で次のように主張している。「経営陣が所有権の共有を拒否し、労働者による管理に反対するなら、所有権の没収と労働者による企業の自己管理を要求する」

 フランス以外の国なら、トロツキスト政党であるLCRに属する漫画のキャラクターのようなスポークスマンは、傍流として片づけられるだろう。しかしフランスでは、現役の郵便局員であるブザンスノはスター的存在だ。

27歳で大統領選候補に

 支持率は60%に達し、そのうち45%は彼の影響力が増すことを期待する。民主運動党首で中道のフランソワ・バイル(44%)や、社会党党首で新社会主義のマルティーヌ・オブリ(42%)など主流派の指導者を上回る期待だ。

 社会党支持者の62%は、党の有力者よりブザンスノの政治的影響力に期待を寄せる。さらに昨年12月の世論調査では4カ月連続で、中道右派のニコラ・サルコジ大統領の「最強の対立候補」に選ばれた。これは社会党に対する侮辱にほかならない。

 これからLCRに代わる新政党「反資本主義新党」(仮称)を率いることになるブザンスノは、この人気を利用するだろう。新党は、マイノリティーの権利や環境問題などのポスト物質主義を交ぜ合わせた共産主義的革命という彼の主張を掲げる。偏狭なイメージがつきまとうLCRという党名を捨て、6月の欧州議会選挙に向けて支持基盤を広げようというわけだ。

 ブザンスノの政界デビューは02年の大統領選で、LCRの候補者として「オリビエ・ブザンスノ、27歳、郵便局員」というシンプルなスローガンで注目を集めた。

 5年後の大統領選にも再び立候補。候補者の平均年齢より22歳若い現役の郵便局員は、4%の得票率で12人の候補中5位につけ、ほかの極左候補を引き離した。

 今や全国区のブザンスノは若さと郵便局員という肩書を武器に、国民が革命にいだく神話的イメージに過激なメッセージで訴える。「歴史の瞬間に立ち上がり、反抗して、(フランス革命や1968年の学生主導の5月革命のように)一時的な暴力も辞さないとする考え方」だと、政治学者のドミニク・レーニエは言う。

 同時に、ブザンスノはベビーブーム世代の心の琴線にも触れた。彼らは超強力な雇用保障と早期の潤沢な年金を享受したツケで、自分たちの子供は学歴に見合わない低賃金の仕事しかないという罪悪感にさいなまれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀の12月利下げを予想、主要金融機関 利下げな

ビジネス

FRB、利下げは慎重に進める必要 中立金利に接近=

ワールド

フィリピン成長率、第3四半期+4.0%で4年半ぶり

ビジネス

ECB担保評価、気候リスクでの格下げはまれ=ブログ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中