最新記事

出版

世界的ベストセラー作家の「ロシアが舞台」の小説が刊行中止に...読者に媚びる出版業界の「気概なさ」

A Babying of Readers

2023年07月02日(日)17時30分
イモジェン・ウェストナイツ(作家、ジャーナリスト)
エリザベス・ギルバート

世間の反発で新作の出版を諦めたエリザベス・ギルバート(写真は2020年) RAJ K RAJーHINDUSTAN TIMES/GETTY IMAGES

<世界中の女性が夢中になった『食べて、祈って、恋をして』のエリザベス・ギルバートの新作が炎上...。刊行を断念した出版業界の「不愉快な真実」とは?>

昨年の今頃、失恋してひどく落ち込んでいた私はエリザベス・ギルバートの『食べて、祈って、恋をして』を読んでみた。

ジュリア・ロバーツの主演で映画化(2010年)もされた王道の失恋実録ものだ。あんなに豪勢な「癒やし」の旅は許せないけど、まあ本で読むくらいならいいかと思った。

結局、私はこの本と作者ギルバートを気に入ってしまい、あの夏にはやたら褒めちぎる文章を書きまくった。今となっては、ちょっと恥ずかしいけれど。

そうしたらこの6月、ギルバートが新著『スノーフォレスト』の出版を無期限で延期したと聞いた。ショックだった。こちらは小説で、20世紀半ばのソ連で最果ての地シベリアに生きた人の実話に基づく作品らしい。

アメリカでは単行本の出版にひどく時間がかかるから、彼女がこの原稿を書いたのは2年以上前のはず。そして出版は来年2月の予定だった。

ところが、その間にロシアがウクライナに侵攻し、戦争が始まってしまった。するとアメリカの書評投稿サイト「グッドリーズ」には、まだ本の概要しか知らされていないのに無情な酷評があふれた。

「ウクライナ人を虐殺しているロシア人を美化する気か」といった非難と抗議の山。それでギルバートも出版社も、現時点での出版を諦めた。

ばかげた話だと、私は思う。今の時代にロシア人の話なんて読みたくないと、世間の人が思う気持ちは分からなくもない。風潮としては、ある意味、やむを得ないのだろう。

でも、そもそも小説は人々に道徳を説く道具ではない。小説に罪はない。現に国際ペンクラブのアメリカ支部などは、今回の出版延期に「遺憾」の意を表明している。

出版界が読者にこびる

それはさておき、興味深いのはギルバートの「変容」だ。


食と健康
消費者も販売員も健康に...「安全で美味しい」冷凍食品を届け続けて半世紀、その歩みと「オンリーワンの強み」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過激な言葉が政治的暴力を助長、米国民の3分の2が懸

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、7月は前月比で増加に転じる

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 2

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 3

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 4

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 2

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 5

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 5

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が尊敬する日本の小説36

特集:世界が尊敬する日本の小説36

2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは