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中国代表「谷愛凌」はアメリカを裏切った? 米中関係の変化に翻弄される18歳

The Dying Chimerican Dream

2022年02月16日(水)17時15分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
アイリーン・グー

グーは米国籍を放棄したか明らかにしていない(北京冬季五輪の表彰式) TYRONE SIUーREUTERS

<中国代表として北京冬季五輪フリースタイルスキーで金メダルを獲得した「チャイメリカン」アイリーン・グーが抱えるアイデンティティーと国籍問題>

アメリカで生まれ育った18歳のアイリーン・グー(中国名・谷愛凌)は、中国代表として出場した北京冬季五輪のフリースタイルスキー女子ビッグエアで金メダルを獲得。中国でこれまで以上にビッグスターになっている。

一方、アメリカでは幼い頃からアメリカ代表として活動しながら中国代表に「転向」し、そのために米国籍を放棄した可能性もあることが非難を浴びている。

2019年、新疆ウイグル自治区の強制収容所が注目され、香港で大規模な民主化デモが繰り広げられるなか、グーは中国代表として活動すると表明した。

それだけでも10代の若者には大きな重荷だ。さらに最近、グーグル創業時の「最初の社員」の1人、レイ・シドニーが、幼いグーと写っている写真をソーシャルメディアにアップしていたことが判明。中国のネットは一気に盛り上がった。グーの父親は公表されておらず、シドニーではないかと臆測を呼んだのだ。彼はすぐに自分はグーの父親ではないが、彼女が幼い頃に彼女の母親とデートしたことがあり、今も友人だと説明した。

ここに重要な事実が見えてくる。グーは今や消滅しつつある世界、すなわち中国とアメリカのエリートが共有していた空間の象徴なのだ。

自由と特権の両方を享受できた

彼女の母親ヤン・グーは中国の政府高官の娘で、大学院進学のため渡米。アメリカの複数の投資銀行勤務を経て、ベンチャーキャピタリストとしてカリフォルニアと中国を行き来した。

アイリーン・グーは中国とアメリカの両方で、富の力を享受しながら育った。アメリカで学費がとびきり高い私立学校に通い、毎年夏は北京で数学オリンピックを目指す講義を受け、今秋からはスタンフォード大学で学ぶ。

サンフランシスコと上海、あるいはニューヨークと北京を行き来する特権は、かつてはごく限られた人々のものだった。その多くは、重慶市のトップだった薄煕来(ボー・シーライ)の息子や習近平(シー・チンピン)国家主席の娘(いずれもハーバード大学で学んだ)など、共産党幹部の子弟だった。

さらに、北京の不動産ブームで富を得たアッパーミドルの家庭も、いわゆる投資家ビザ(EB-5プログラム)でアメリカに拠点を持ち、子供をアメリカの高校に入れてきた。

彼ら「チャイメリカン」のエリートのライフスタイルは、2つの国を容易に行き来しながら、一方の自由と他方の特権を享受して、比較的簡単に送金できることを前提に成り立っていた。

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