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「同性婚合法化」国民投票が迫るスイス 直接民主制の人びとが選択するのは?

2021年09月24日(金)18時40分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

反対派が押され気味 「可決」に勝算ありか

同性婚法に反対する委員会は、伝統的な家族像を守るべきだという意見を並べている。「1対1の男女の結婚に基づいて子どもを産む」ことが大切であり、同性婚で子どもを作ることは自然の摂理に反すると主張する。同性婚を合法化して女性カップルが子どもを作れるようになれば、男性カップルも子どもをもちたいと将来訴えて、卵子提供や代理出産が許可されることになるかもしれない。精子や卵子を提供してもらい、第三者(実父や実母)と関わってでも子どもをつくることは、同性カップルの欲求を満たすだけなのではないか。さらに、子どもに与える負の影響が、父親と母親のもとで成長した場合より同性婚で育つ場合は大きいのではないかと危惧する。

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反対派の委員会「Nein zur Ehe für alle」が配布しているフライヤー。「子どもたちには父親と母親が必要だ! 同性婚法に反対」「(レインボーカラーの哺乳瓶を良しとする)性的な独裁に反対」
 

しかしながら、世論は同性婚法を支持しているようだ。9月初旬に行われた世論調査(スイス放送協会の委託)によると、同性婚法「すべての人に結婚を」を支持する人たちが明らかに多い(1万3261人回答)。賛成派は63%、反対派は35%だ。年齢別に見ると、「賛成」と「やや賛成」が18~39歳は75%。10~64歳は62%、65歳以上は53%と、やはり柔軟性のある若い世代の方が肯定的な傾向にあった。

この世論調査の結果について、担当した研究所gfs.bern長で政治学者のMartina Mousson氏は、「9月26日に、否決される可能性がないとは言えないが、可決されるチャンスははるかに高いとコメントしている。

筆者は、国民投票が世論調査の結果通りになる気がしている。同性愛者はもはや身近な存在であり、スイスでも同性愛者の政治家、アナウンサー、俳優などをテレビでよく見かける状況だから、国民の同性愛者たちに対する理解は以前より広まってきているように思う。もちろん都市部と田舎では理解の程度に差はあるはずだが。同性婚法に賛成の人たちの願いにうなずけるので、筆者も同性婚には「やや賛成」だ。全面的に賛成できないのは、同性婚法に反対する人たちの意見の一部にも納得できるからだ。さて、読者の皆さんのご意見は、どちらだろうか。


s-iwasawa01.jpg[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」監事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com

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