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漁場を荒らす厄介者が第2のエスカルゴとして人気者に

The Next Big Seafood Trend?

2020年04月28日(火)17時50分
ハナ・セリンジャー

「ワイルド・モントーク・エスカルゴ」はニューヨークの最高級レストランにも卸されている ECOMARE/SYTSKE DIJKSEN/WIKMEDIA COMMONS

<米東海岸に生息するネコゼフネガイが「持続可能な食材」として注目を浴びている>

小型の腹足類(いわゆる巻き貝) ネコゼフネガイには、たくさんの名前がある。学名はクレピデューラ・フォルニカーテ。アメリカではスリッパー・スネイル、イギリスではスリッパー・リンペットと呼ばれている。フランスでは、べルランゴ・ド・マール(海のキャンディー)という愛らしい別名を持つ。

持続可能性を重視する魚介類販売ネットワーク「ドック・トゥー・ディッシュ」の創設者ショーン・バレットは、「ワイルド・モントーク・エスカルゴ」という新しい別名を売り込んでいる(モントークはニューヨーク州最東端の岬)。この作戦が成功すれば、ネコゼフネガイはディナーの人気メニューになるかもしれない。

世界で持続可能性の重要度が高まると、これまで無視されてきた意外な食材が注目されるようになった。ネコゼフネガイはその好例だ。「シーフードの食材にここまで興奮したのは、本当に久しぶりだ」と、バレットは言う。

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「ドック・トゥー・ディッシュ」の創設者ショーン・バレット COURTESY DOCK TO DISH

ネコゼフネガイは他の貝類の餌である植物プランクトンを食い荒らし、爆発的に繁殖する。昔からアメリカ東海岸に多数生息しているが、アメリカでは広く食材として認識されていなかった。むしろ地元の漁師たちにとっては、他の貝類と一緒に収穫してはすぐに廃棄する厄介者だった。それが第2次大戦中に船体に付着して東へ移動し、ヨーロッパで食材として定着した。

バレットはネコゼフネガイをニューヨークの最高級レストランのいくつかに卸している。有名シェフのダン・バーバーが共同オーナーを務めるブルーヒルでは、伝統的なエスカルゴ料理のスタイル、つまりバターとガーリックをたっぷり使い、じっくりと焼いてネコゼフネガイを出す。

だし汁作りにも挑戦中

だが、こうした高級レストランはまだ特殊なケースだ。アメリカでの食材としての可能性を分析したロジャー・ウィリアムズ大学のW・ブレット・マッケンジー教授によれば、ネコゼフネガイの問題は炭酸カルシウムの固い貝殻と狭い空洞のせいで、肉が取り出しにくいことだという。

持続可能な魚介類の消費を促進するNPO、イーティング・ウィズ・エコシステムの科学部長代理サラ・シューマンは言う。「ネコゼフネガイは貝殻の大きさのわりに、食べられる肉の量が少ない。市場で売れるようにするためには、殻を取ったむき身の状態で出荷することだと思う」

ネコゼフネガイの肉は、外見も味も異なる2つの部分に分かれる。「1つは分厚くて硬くて塩辛い吸盤。その奥に、甘くて柔らかくておいしいネコゼフネガイの『本体』がある」と、バレットは言う。

植物プランクトンや海藻、そしてネコゼフネガイといった生態ピラミッドの底辺に位置する生き物を食べることは、生態系のバランス維持に役立つ可能性がある。「実際、この種は生息数が増えている」と、シューマンは言う。

シェフたちはバレットと協力して、ネコゼフネガイのパスタからエスカルゴ風料理、日本料理のだし汁作りまで、あらゆるものに挑戦している。彼らは伝統を重視するあまり保守的になりがちな料理の世界で新境地を開く絶好のチャンスだと考えている。

イノベーションとディナーが交差するこの分野に投資した人々にとって、ネコゼフネガイ(あるいはワイルド・モントーク・エスカルゴ)は大きな可能性を秘めている。

© 2020, Slate


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