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祖先から引き継いだ衝動? 若者の危険行動は生存本能かもしれない

Teen Risk-Taking:A Good Thing?

2019年11月06日(水)17時40分
ニューズウィーク日本版編集部

若者たちが好む危険な状況と、若者たちを餌食とさせる経験不足は区別したほうがいいかもしれない。だが、どちらも生き抜けば将来的に身の安全を守る効果をもたらす。

若いコウモリは、天敵のフクロウに向かって飛んでいくことがある。まるでスリルを追い求めているかのように。

だがパナマにあるスミソニアン熱帯研究所(STRI)の研究者らの観察では、コウモリはいたずらにスリルを求めているわけではない。このように若い個体が危険なものから逃げるのではなくわざわざ近づいていく振る舞いを、生物学者は「対捕食者行動」と呼ぶ。野生の魚や鳥、哺乳類の若い個体に広く見られるもので、将来のために非常に重要な意味を持つ。

こうした行動を通して若い個体は、捕食者に関する極めて重要な情報を手にする。敵の戦略がどんなものか分かれば、将来にわたって食われずに済むかもしれない。

何より危険なのは過保護?

若い個体にそうした行動を取らせるのは、青年期に起きるホルモンと脳の変化だ。人間を含むいかなる動物の脳にも、自らの生存率を引き上げるような行動を取るとそのご褒美として快感を得られるというシステムがある。そして若い個体の脳は、対捕食者行動のような非常に重要な安全にまつわる学びに対し、とても強い快感を与えるようにできている。

危険との遭遇という「教育的効果」を経て、動物の若い個体はより安全に、より自信を持って暮らせるようになる。人間の若者が禁忌を犯すことに夢中になるのも、捕食者と向かい合いたいという祖先から引き継いだ衝動なのかもしれない。

ホラー映画の観客やジェットコースター待ちの行列が若者ばかりなのも、若者の脳が恐怖から受け取る強い快楽によって説明づけることができる。薬物依存症や癌、テロ、銃撃などによる死を描くヤングアダルと向け小説の読者は、実際に危害を加えられることなく命に関わる危険を体験することができる。これも祖先の対捕食者行動の名残だ。

確かに親が目を配っていれば、目先の危険から子供を守ることはできるかもしれない。だが一方で、経験不足のままでいることの危険もある。私たちの研究から分かるのは、若者は多少なりとも危険にさらされる必要があるということ。そして何より危険なのは、親の過保護かもしれないということだ。


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