最新記事

Z世代

息子の嫁を買うために母は娘を売る──児童婚犠牲者の思いを代弁するZ世代が世界を変える

2019年11月22日(金)17時30分
西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)

nww-191122-an-02.jpg

現在、アメリカで暮らすソニータ Photo: Greg Kahn

彼女は、当時の感情をこう振り返る。

「"人生が終わった"と感じました。母の口からこの知らせを聞いた瞬間、心が痛くて、恐怖で息ができませんでした」

児童婚はアフガニスタンでは珍しいことではない。ユニセフの資料によると、アフガニスタンで2010年~2017年の間に、18歳未満で結婚した女の子の割合は35%、15歳未満では9%の女の子が児童婚をした。ユニセフは「18歳未満での結婚、またはそれに相当する状態にあることを児童婚」と定義し、それは「子供の権利の侵害」だと非難している。

しかし、ソニータには歌手になるという、"将来の夢"があった。だからこそ母が発した"結婚"という言葉は、彼女にとって"夢の終わり"を意味していた――。

ソニータにとって、困難に直面したのはこれが始めてではない。彼女は10代だったが、同世代の女の子には想像もつかない数奇な人生を送ってきた。

10歳の頃、ソニータは家族と共にタリバンによって治安が悪化した母国アフガニスタンを去り、隣国イランで「不法滞在者」として育った。やがて年老いた父は亡くなり、母もしばらくしてアフガニスタンに帰ったため、イランに残ったのは彼女と兄弟姉妹だけだった。身分証明書を持っていないため、現地の学校には通えない。アフガニスタン難民に読み書きを教えるNGOのもとで勉強を教わりながら、清掃の仕事をして暮らしていた。

母がソニータに"突然の結婚"の知らせを告げに来たのは、彼女がそんな生活を送っていた時だった。

「もう諦め、母の言葉に従おうとしていました。でも、将来の夢を綴ったスクラップブックを見て、思ったのです。『立ち上がらないといけない!』と。なぜなら私には数えきれないほど、たくさんの夢があったから」

母がアフガニスタンに帰ってから、ソニータは後に彼女の人生を変えることになった『売られる花嫁』(原題:brides for sale)という曲を作り、映画監督のロクサレ・ガエム・マガミの協力を得てミュージックビデオを制作、そしてYouTubeに投稿した。

この曲では、花嫁として売られる女の子を羊に例えるなど、心が痛くなる表現が歌われている。これはソニータ自身の想いと共に、児童婚の経験を持つ友達たちの感情を代弁したという。

「女の子は、まるで"財産"であるかのように扱われ、売られていく――。家族に自分が感じていることを理解してもらいたかった。それに、何とかしないといけないと感じ、この曲を書きました」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ436ドル安、CPIや銀行決算受

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 3

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 4

    胸につけた「特別なリボン」は何?...キャサリン妃の…

  • 5

    「ハイヒールを履いた独裁者」メーガン妃による新た…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 3

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 4

    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…

  • 5

    「ハイヒールを履いた独裁者」メーガン妃による新た…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 3

    加工した自撮り写真のように整形したい......インス…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    カーダシアンの顔になるため整形代60万ドル...後悔し…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:AIの6原則

特集:AIの6原則

2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?