最新記事

虐待

残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ17世の悲劇的な末路

2019年04月10日(水)18時15分
西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト)

この再教育は6カ月間続いたが、後に派閥争いによりアントワーヌ・シモンは処刑された。母親であるマリー・アントワネットは、ルイ=シャルルの再教育が始まった数カ月後に処刑をされた。母は子供が受けている残忍な虐待を知ることはなかった。一方、ルイ=シャルルも母のギロチンによる処刑を知ることはなく、死後も花が好きな母のために、外で摘んだ花を母の部屋の扉の前に置き続けた、という説が残っている。

アントワーヌ・シモンが去った後、後見人がつくことはなく、ルイ=シャルルは約6カ月間不潔な部屋に放置されてしまう。

「この段階では、ルイ=シャルルの外出は禁止され、人との接触を奪われた。服は一切洗濯してもらえず、部屋の掃除もせず、便器は置かれなかったので排泄物だらけだったという説がある。暗く孤独な独房生活を送った」(ベクエ氏)

しかし半年後、ポール・バラス(後の総裁)によりルイ=シャルルは後見人をつけてもらえ、入浴、独房の掃除がされた。その後、ルイ=シャルルの快方を望む後見人の世話や、医師の診察も受けたが、時はすでに遅く、ルイ=シャルルは10歳で結核により生涯を閉じた。

「ルイ=シャルルの死後、何百人もの"タンプル塔から脱走した"という偽ルイ17世が現れた。検視中に盗まれた心臓はイタリア、オーストリアを経てフランスへ戻り、2000年代にDNA鑑定が行われた。これがルイ17世の心臓と証明され、ようやくこれらの噂は消え去った。現在ルイ17世の心臓は、サン=ドニ大聖堂にある壺の中にある」(デロルム氏)

ルイ17世は「すべてを奪われた子供」の象徴的存在

ルイ17世の悲惨な物語は、現在でも「残酷な状況のもとで生きる子ども」の象徴として語り継がれている。その例が、2019年6月にフランス西部にあるmusée des Guerres de l'Ouest(西部戦争博物館)で開催予定の「Un Buste Pour Louis XVII(ルイ17世のための胸像)」展だ。この展覧会で作品を手掛けた、フランス人彫刻家のカトリーヌ・ケアン氏に話を聞いた。

「私はフランス革命下で大虐殺がおこったナントで生まれた。私の地元では、200年以上前のこの出来事が、今でも会話の中に出てくる。そんな激動の時代に不運な人生を送ったルイ17世の生涯について小さな頃に知り、今でも強く私の心に刻まれている。この彫刻は、子供への暴力がいかに"犯罪"であるかを啓発するために造った。

louis-02.jpg
カトリーヌ・ケインさん作、心臓をとられたルイ17世の胸像。(Photo: Phillipe Delorme)

作品は、痛みと病で変わり果てたルイ17世の"心の恐怖"を表現している。心臓が抜き取られたこの彫刻は、すべてを奪い去られた純粋な子供の苦痛を表しているのだ。世界には今でも児童虐待、戦場や自爆テロに送られる子供たち、性的虐待を受けた子供たちなどが存在する。まず子供の権利について向き合わないと、世界の平和構築はできない」


ayananishikawa-01.jpg[執筆者]
西川彩奈
フランス在住ジャーナリスト。1988年、大阪生まれ。2014年よりフランスを拠点に、欧州社会のレポートやインタビュー記事の執筆活動に携わる。過去には、アラブ首長国連邦とイタリアに在住した経験があり、中東、欧州の各地を旅して現地社会への知見を深めることが趣味。女性のキャリアなどについて、女性誌『コスモポリタン』などに寄稿。パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、ヨーロッパの難民問題に関する取材プロジェクトなども行う。日仏プレス協会(Association de Presse France-Japon)のメンバー。
Ayana.nishikawa@gmail.com

20190416cover-200.jpg

※4月16日号(4月9日発売)は「世界が見た『令和』」特集。新たな日本の針路を、世界はこう予測する。令和ニッポンに寄せられる期待と不安は――。寄稿:キャロル・グラック(コロンビア大学教授)、パックン(芸人)、ミンシン・ペイ(在米中国人学者)、ピーター・タスカ(評論家)、グレン・カール(元CIA工作員)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

自民・維新が20日午後6時に連立政権成立で合意へ、

ワールド

中国レアアース磁石輸出、9月は6%減少 回復途切れ

ビジネス

中国新築住宅価格、9月は11カ月ぶり大幅下落 前月

ビジネス

中国GDP、第3四半期は前年比+4.8% 1年ぶり
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 1

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 2

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 1

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 2

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 3

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:日本人と参政党

特集:日本人と参政党

2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る