最新記事

人種問題

「狭き門を気に病む必要はない」――『クレイジー・リッチ!』主演女優がこじ開けたハリウッドの扉

Minority Report

2019年01月25日(金)15時30分
アンナ・メンタ

「自分の文化的アイデンティティーが引き裂かれる」と、台湾人の母と中国人の父を持ち、カリフォルニアで育ったチュウは言う。「自分がアジア人なのかそうでないのか、選択を迫られているような気になるんだ。でもやがて、それぞれの文化をリミックスし、何を引き継ぐべきか決められるようになる」

独自のコンテンツを築く

36歳のウーにとっても、身に覚えのある話だ。両親は台湾からアメリカに移住。ウーの初舞台は12歳の時、地元劇場での公演だった。ニューヨーク州立大学パーチェス校で演技を学んだが、卒業後はなかなか舞台の仕事にありつけず、もう少しで俳優業を断念するところだった。

彼女のキャリアを救ったのは、2010年の恋人との別れだった。「テレビや映画をやるつもりはなかったけど、ニューヨークの男と別れて、出ていかざるを得なかった」と、ウーは言う。

そこで向かったのがロサンゼルスだ。ハリウッドの多様性確保の方針のおかげで、ウーはいくつか役を射止めた。だが彼女はすぐに、親友役やコミカルなアシスタント役など、マイノリティーに与えられる型どおりの役にうんざりした。

『フアン家のアメリカ開拓記』での抜擢も、ありがたいようなありがたくないような気分だった。「そこでも主役は(夫役の)ランドール(・パーク)だった。彼がこの地位をつかんだのは喜ばしいけれど、アジア系の女性はいつでも脇役か相手役だ」

『クレイジー・リッチ!』のレイチェル役では、ウーが当初からトップ候補に挙がっていた。ウーがアジア系アメリカ人の役割についてツイッターで発信する内容に、チュウが以前から感銘を受けていたからだ。2人は初顔合わせで意気投合したものの、ウーのテレビのスケジュールがぶつかり、渋々ながらタッグを組むのを断念した。

だが数カ月後、ウーはチュウにメールで熱い思いをぶつけた。「どうしても秋に撮影しなければいけないのだとしたら仕方ない。でも少し遅らせられるのなら、私は喜んで参加したい」。チュウは即座に制作スケジュールを3カ月後ろ倒しにした。

『クレイジー・リッチ!』は、より多くのアジア系アメリカ人たちが主役を張るためのきっかけとなるのか。答えは興行成績に懸かっている。

だがウーは、映画以外の形態にも希望を持っている。アジズ・アンサリ主演のネットフリックスのドラマ『マスター・オブ・ゼロ』や、YouTubeで人気のグループ「ウォン・フー・プロダクション」による『ヤッピー』シリーズなどだ。

「アジア系アメリカ人は役を与えられるのを待っていない。彼らは自分で独自のコンテンツを作っている」と、ウーは言う。「ハリウッドの狭き門を気に病む必要はない。自ら新たな世界を開きつつあるのだから」

[2018年10月 2日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、12月は予想下回る 雇用・所得

ワールド

トランプ氏「同意しない者はFRB議長にせず」、就任

ワールド

イスラエルのガザ再入植計画、国防相が示唆後に否定

ワールド

トランプ政権、亡命申請無効化を模索 「第三国送還可
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    2つのドラマでも真実に迫れない、「キャンディ・モン…

  • 4

    エリザベス女王が「リリベット」に悲しみ、人生で最…

  • 5

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    女子サッカーで世界初、生理周期に合わせてトレーニ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 3

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 4

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:ISSUES 2026

特集:ISSUES 2026

2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン