怒らせると怖い──恋の恨みを原点に結成したガールズバンドの魅力
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左から、コシアルス、 マーティン、ペローテ、グリムベ ルゲン。ツアーや音楽フェスで 世界中を飛び回る NEELAM KHAN VELA
<怒って笑って恋をして......女子の本音をリリカルに歌うスペイン発の「ハインズ旋風」が世界を駆け巡る>
スペインのガレージロックバンド、ハインズは怒らせると怖い。メンバーの女の子4人はとことん根に持つタイプだから。
バンドは当初「ディアーズ(Deers)」と名乗っていたが、カナダのバンド「ディアーズ(Dears)」から、紛らわしいので改名しないと訴えると脅された。あの時の恨みをメンバーは忘れていない。そのバンドは「今でも大嫌い」と、ハインズのボーカルとギター担当のアナ・ガルシア・ペローテ(23)は言う。「これ読んでる? 私たち、あんたたちのこと大嫌い!」
音楽フェスティバルでモデルのケイト・モスに冷たくあしらわれたことも根に持っている。「写真を断られた」と、ペローテは言う。「ノーだって!」
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でも、一番の恨みは恋の恨み。ハインズの原点は、実は失恋だ。創設メンバーのペローテとギター、ボーカルのカルロッタ・コシアルス(27)は、互いの恋人が同じバンドにいたのが縁で知り合った。その後どちらも相手の浮気が発覚したが、ペローテとコシアルスは固い友情で結ばれた。2人とも恋人を振って、11年にスペインの地中海沿岸へ旅に出た。
「暇で何もすることがなくて」と、ペローテは当時を振り返る。「1コードだけなら弾けたからギターを手に取った。食べるのも忘れてた。ひたすらボブ・ディランの曲(「悲しきベイブ」)を弾き続け、演奏する感覚にすっかりハマってしまった」
2人はデュオを結成。名前を「ディアーズ(鹿)」にしたのは「浮気する」をスペイン語で「角が生える」と言うからだが、元カレたちのバンドなんて目じゃないほどの成功を収めた。
ささやくようなボーカル
2人で他人の曲をカバーしていた頃の演奏は赤面ものだが、7年後の今、ハインズは4人組の実力派インディーロックバンドに成長し、アメリカでも支持を広げている。ペローテとコシアルスに、ドラムのアンバー・グリムベルゲン(22)とベースのアデ・マーティン(26)が参加。16年1月にリリースしたデビューアルバム『リーブ・ミー・アローン』で世界的にブレイクした。
「ロックな生き方がしたかった──エゴ、ドラッグ、いつも恋に落ちていること。みんな現実」と、コシアルスは言う。ソフトで半ばささやくような彼女のボーカルは、ハインズのトレードマークの1つだ。
今年4月にリリースしたセカンドアルバム『アイ・ドント・ラン』でも、恋の苦悩をリリカルかつキャッチーに表現してみせた。派手なサビ、ザ・ストロークスにインスパイアされたローファイの美学、いやらしくてふしだらな男たちを歌った歌詞が売りだ。リリカルさの源はスペイン語の「デスアモール」。でもペローテによると「ぴったりの英語はない。ハートブレイクじゃないし......」。そこへマーティンが口を出す。「恋が終わったときの嫌な気持ち」