最新記事

性犯罪

良かれと思ったレイプ防止策、逆に女性への攻撃性を高めることに

Misplaced Advice

2018年08月23日(木)17時00分
アリストス・ジョージャウ

一部の男性は男女平等を主張されると、逆に攻撃性を高めるという GMAST3R/ISTOCKPHOTO

<大学の防止プログラムで逆に攻撃的になる男性も>

アメリカの大学では近年、レイプ事件が多発している。そのため今では政府の補助金を受けている大学は、レイプ防止と啓発を目的としたプログラムの実施が法律で定められている。

しかし、こうしたプログラムの効果を確認することを義務付ける法律はなく、評価はほとんど行われていない。

暴力行為に関する学術誌「アグレッション・アンド・バイオレント・ビヘイビア」に発表された新しい研究によれば、大学のレイプ防止プログラムは、逆に問題を悪化させる恐れがある。

この研究でカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のニール・マラムス教授(心理学)らは、性暴力を起こす危険性が高い若者を対象とするプログラムは、女性への攻撃性を高める「敵対的な反応」を生む可能性があると結論付けている。

【参考記事】異例の熱波と水不足が続くインドで、女性が水を飲まない理由が悲しすぎる

望む女性と性交渉をする「権利」があると思っている男

マラムスのチームは、このテーマに関する先行研究を精査した。そこで分かったのは、こうしたプログラムが有効だった事例はごく少数であるということだ。「数は少ないが、分析した過去の論文のデータによれば、暴力的な男性に対して広く使われている心理的介入手法が、意図とは逆の結果をもたらすことに驚いた」と、マラムスは心理学ニュースサイト「サイポスト」に語った。

例えば15年のある研究では、性差別的な態度が強い男性は、男女の平等を促進するメッセージを読んだ後、女性に対してさらに攻撃的になったことが分かっている。

マラムスらはこれを「ブーメラン効果」として知られる心理学的現象に分類。「人は自由を脅かされるとそれに反発し、外部からの強制と反対の方向に動くことで、自律性を主張する」と論じている。

つまり性的な攻撃性を持つ男性は、男女平等や暴力防止のメッセージに逆らう行動を取る可能性がある。彼らは、自分には望む女性と性交渉をする「権利」があると思っているためだ。

マラムスは今回の調査結果を、より効果的なレイプ防止プログラムの開発に役立てられるだろうと言う。「大学に入学する年齢に達するずっと前に、よりよい防止策を講じることを検討すべきだ。もっと若いうちでなければ、効果は上がらないかもしれない」

【参考記事】集団レイプで受けた心の傷から肥満に苦しむ女性の回想録

[2018年7月10日号掲載]

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過激な言葉が政治的暴力を助長、米国民の3分の2が懸

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、7月は前月比で増加に転じる

ワールド

中国、南シナ海でフィリピン船に放水砲

ビジネス

独ZEW景気期待指数、9月は予想外に上昇
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 2

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 3

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 4

    話題の脂肪燃焼トレーニング「HIIT(ヒット)」は、心…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 2

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

  • 5

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    女性の胎内で育てる必要はなくなる? ロボットが胚…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 5

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:世界が尊敬する日本の小説36

特集:世界が尊敬する日本の小説36

2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは