zzzzz

最新記事

アスリート

「外交」で復活した悪童ロッドマン

NBA引退後は世間に忘れられていた男が北朝鮮を電撃訪問して金正恩と仲良く談笑──再び世界を騒がせているバッドボーイの波乱の人生

2013年4月26日(金)15時34分
バズ・ビッシンジャー(スポーツコラムニスト)

軽率? 2月28日、平壌で金正恩(左)と一緒にバスケットボールの試合を観戦したロッドマン KCNA-Reuters

 デニス・ロッドマンが国際政治の歴史を変える日が来るなんて、誰が想像しただろう?

 髪を炎のように赤く染め、ピアスをじゃらじゃら着けていたNBA(全米プロバスケットボール協会)の悪童。NBA史上屈指のリバウンドの名手。試合中にシカゴ・ブルズのスコッティ・ピッペンを観客席まで突き飛ばし、カメラマンの股間に蹴りを入れた乱暴者。わが子を放り出し、自伝のサイン会にウエディングドレスで登場した男。

 型破りの行動で物議を醸してきた男ではある。だが、2月末に平壌で北朝鮮の最高指導者、金正恩第1書記と談笑する映像がテレビで流れたときは、誰もが唖然とした(帰国後に金を「いい奴」と呼び、さらにひんしゅくを買った)。

 このグローバル化と均質化の時代にも、超個性派の出る幕はまだ残されていたようだ。ロッドマンがテレビ画面の向こう側に帰ってきた──デトロイト・ピストンズとシカゴ・ブルズで5度の優勝を経験し、よくも悪くも注目を浴び続けた14年の現役生活を終えた後は、私たちの視界からほぼ消えていた男が。

 今回の北朝鮮訪問を計画したのは、ニューヨークのバイス・メディアという会社だ。ケーブルテレビのドキュメンタリー番組の企画の一環だった。恐らくロッドマン自身は、北朝鮮のおぞましい人権侵害の現実をまったく知らなかったのだろう。

 それでも最近の大半のアスリートと違い、物議を醸す問題で明確な立場を取ったのは、いかにもロッドマンらしい。

 とはいえロッドマンを90年代から知るエスクァイア誌のスコット・ラーブが言うように、彼は何百人ものジャーナリストや政治家やビジネス関係者が果たせなかったことをやってのけた。ロッドマンと撮影班は、(分かっている範囲では)アメリカ人として初めて、権力を継承した後の金正恩に面会したのだ。

自殺を本気で考えた夜

 確かに、軽率な行動だったかもしれない。しかし現代社会では、重要なイベントはほぼことごとく念入りに準備され、シナリオがあらかじめ決まっている。それでは、あまりに退屈過ぎないだろうか。

 これまでの波瀾万丈の生涯を考えると、いまロッドマンが生きていて、(恐らく一瞬だけとはいえ)こうして再びスポットライトを浴びること自体が奇跡のようにも思える。

「俺は死をいつも夢見ている」と、ロッドマンは96年、ローリングストーン誌のクリス・ヒース記者に述べている。「あらゆる死に方について考えてみた。俺が夢見るのは、誰かに心臓を引き抜かれること。列車にひき殺されたい」

 当時ロッドマンはシカゴ・ブルズでプレーしていて、年俸は900万ドル。人気と不人気の両方の絶頂にあり、それを利用することが誰よりも得意だった。そんな男が死を語るというのは、皮肉なものだ。

 それ以降、今日に至るまでの17年間は、順風とは言い難かった。2000年3月には、わずか12試合に出場しただけでダラス・マーベリックスを自由契約になる。38歳、現役生活の静かな幕引きだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代

ワールド

アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴ

ビジネス

アングル:肥満症薬に熱視線、30年代初頭までに世界
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 3

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...痛すぎる教訓とは?

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    「同性婚を認めると結婚制度が壊れる」は嘘、なんと…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中