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性犯罪

「だれにも言っちゃだめだよ」になぜ子どもは従ってしまうのか...集団の性被害を防ぐために気を付けたいこと

2025年3月26日(水)17時38分
櫻井 鼓 (犯罪心理学者、横浜思春期問題研究所副所長)*PRESIDENT Onlineからの転載

なかなか相手を非難できないことがある

このシーンでは、自分の主張に自信がなくなって迷いつつある女の子に、念押しするように頭を強めにたたいて、君のほうがまちがっている、と指摘しています。

本当は、この時点で相手の言動はおかしいと気づけたらいいなと思います。でも、たとえばちょっと強く押されるくらいであれば、それが「暴力」だと気づいたり、相手が自分よりも年齢の離れた先輩や大人であれば、その場で非難したりすることは難しいだろうと思います。


私は、こういう経験をした多くの人々に接してきました。暴力をふるわれたり、いやだと思っているけど性的なことをされたりしたとき、その話を第三者が聞いたら「相手が悪い」とすぐに思えますよね。

でも、当事者はそんなふうに思えないことがあるのです。まして相手が知り合いだったり、社会的立場が上の人であったりすると、非難することはさらに難しくなります。相手のしていることが正しいのではないか、と思ってしまうことがあるからです。

「自分が悪いのではないか」と思ってしまう

そんなときにおちいりがちなのが、自分のほうに原因があるのではないか、自分が悪いのではないか、という思考です。そうなると、相手が正当化されます。

自分が悪いのだから、相手が怒ったり自分を責めたりするのは当然だ、と思うわけです。こうしていつの間にか、怒られたり責められたりしている自分のほうが加害者であるかのように、そして、加害者のほうがまるで被害者であるかのような気持ちになってしまいます。

つまり、加害者と被害者の立場が逆転してしまうのです。さきほどのシーンでも、最後には女の子が、自分のほうがおかしいのではないか、と思ってしまっています。

また、自分に対していやなことをしてくる合間で、相手が時に優しさを見せたり、愛情を示してきたりすると、状況がさらに複雑になることがあります。

いやなことをされているのに、相手が見せてくる優しさや愛情にほだされて、つい許してしまう、ということが起きるのです。こうなるともう相手の思うつぼで、何かきっかけがあるたびに怒ってくる、責めてくる、ということがくり返されるようになります。そして同じように、怖いから、自分が悪いからと思ってしまい、相手に合わせる、許すという態度をくり返してしまうのです。

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