最新記事
ヘルス

「鼻ホジホジ」「歯磨きサボリ」するあなた、要注意です! 最新研究で分かった「ヤバい習慣と認知症」の意外な関係

2023年9月29日(金)19時10分
中尾篤典(医師)・毛内 拡(脳神経科学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

臓器を傷つけ、がんや認知症の原因になる

またマウスを用いた実験では、歯周病菌を投与されたマウスで炎症関連の遺伝子数が上昇していることも明らかになりました(※8)。慢性的な炎症は臓器の機能低下やがんを引き起こします。

※8 Meyer C, et al. Role of human liver, kidney, and skeletal muscle in postprandial glucose homeostasis. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2002; 282: E419-E427.

中尾篤典・毛内拡『ウソみたいな人体の話を大学の先生に解説してもらいました。』例えば肝臓の炎症は肝硬変を経て肝がんになることが知られていますし、脳における慢性的な炎症は認知症の原因にもなります。歯周病菌は筋肉を奪うだけでなく、感染によって肉体に傷もつけているようです。

歯周病菌の悪影響はまだあります。筋肉は、食事で摂取した糖分の多くを吸収しグリコーゲンとして蓄え、飢餓などに備えてエネルギーを蓄える貯蔵庫としての役目があります。ところが歯周病菌に感染したマウスは、筋肉に吸収される糖の量が減り、同時に血糖を下げるインスリンの効き目が大きく落ちていることが確認されました。

つまり、筋肉による糖吸収を抑え、結果的に血糖値が上がるという悪影響を及ぼしているのです。さらに腸内細菌を調べると、歯周病菌は腸内細菌叢の腸内細菌の多様性を損なっていることも示されました。

「凶悪な菌」が口の中に住み続けている

今回の研究により、歯周病菌は血糖値を上げるという直接的な糖尿病の原因となるだけでなく、筋肉を脂肪化させ身体に炎症を起こし、腸内細菌の多様性を奪うことが示されました。

地球上に存在する菌の中でも、歯周病菌は私たちの身体にとって非常に有害な部類に入ります。人間の口の中になぜこのような凶悪な菌が住みつけるのかは謎のままです。

糖尿病の予防には運動、生活習慣の是正などがありますが、それに加え念入りな歯磨きもおすすめです。

中尾篤典(なかお・あつのり)

医師、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救命救急・災害医学講座教授
1967年京都府生まれ。岡山大学医学部卒業。ピッツバーグ大学移植外科(客員研究員)、兵庫医科大学教授などを経て、2016年より現職。著書に『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えます』『こんなにも面白い医学の世界 からだのトリビア教えますPart2』(共に羊土社)がある。

毛内 拡(もうない・ひろむ)

脳神経科学者、お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教
1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業、2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員などを経て2018年より現職。同大にて生体組織機能学研究室を主宰。専門は、神経生理学、生物物理学。著書に、第37回講談社科学出版賞受賞作『脳を司る「脳」』(講談社)、『面白くて眠れなくなる脳科学』(PHP 研究所)、『脳研究者の脳の中』(ワニブックス)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正「農業犠牲にせず」と官房長官、トランプ氏コメ発

ワールド

香港の新世界発展、約110億ドルの借り換えを金融機

ワールド

イラン関係ハッカー集団、トランプ氏側近のメール公開

ビジネス

日本製鉄、バイデン前米大統領とCFIUSへの訴訟取
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中