最新記事
文学

村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した

A Return to Wonderland

2024年12月17日(火)17時15分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

そんな影に向かって主人公は言う。

「ぼくという存在はこの街に呑み込まれていくかもしれない。でももしそうだとしても、それでかまわない。ここにいれば少なくともぼくは孤独ではない。この街で自分がとりあえず何をすればいいのか、何をするべきなのか、それがわかっているから」

その街には、ずっと忘れられなかった10代のときの恋人がいる。彼女は彼のことも、かつてのロマンスのことも覚えていない。それどころか、多くの住民のように、強い感情を持つことすらできないようだ。それでも、その街にとどまれば、おそらく彼は毎日彼女に会うことができる。


村上らしからぬ現実味

結局、現実の世界に戻ったらしき主人公は(穴に落ちたときから、ほとんど時間はたっていないようだった)、会社を辞め、山間の小さな町の図書館に仕事を見つける。

そこでの生活には、猫やフレンドリーな幽霊、ジャズ、食事の支度といった、村上ワールドの常連的要素が登場する。黄色い潜水艦の絵(ビートルズの「イエロー・サブマリン」)が描かれたヨットパーカを着た少年もいる。

この時期は、3部構成の作品の中盤を占め、のんびりとして質感あふれる展開となっている。山間の町とそこに暮らす人々は、村上作品らしからぬ現実味にあふれている。主人公の生活は、壁に囲まれた街の残響かもしれないが、その違いは小説の結末に決定的に重要になる。

壁に囲まれた街とはなんなのか。刑務所なのか、ユートピアなのか。現世なのか、死後の世界なのか。過去なのか、未来なのか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

グリーン英中銀委員、インフレ圧力や賃金上昇指標を依

ビジネス

米ITA支援の外国政府調達契約、25年は前年比3倍

ビジネス

ドイツ25年借入額、当初計画下回る 歳出減と歳入増

ワールド

デンマーク首相、NATO事務総長と北極圏の安全保障
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中