最新記事
サッカー

サッカー=ドイツ代表、「ベルンの奇跡」支えたアディダス捨て、ナイキに鞍替えの衝撃

Much More Than Just Shirts

2024年4月24日(水)20時00分
ブリン・ストール
アディダスのユニフォームを着たドイツ代表

アディダスのユニフォームを着たドイツ代表(今年3月) STEFAN MATZKE-SAMPICSーCORBIS/GETTY IMAGES

<70年以上の関係を解消し、ドイツサッカー協会が米企業ナイキと契約したのはなぜか。「3本線がないのは想像できない」と反発が渦巻いている>

スポーツチームがユニフォームのメーカーを変更しても、普通は新聞の1面に載らないし、強い反発を招くこともない。だがサッカーのドイツ代表は、普通のチームではない。そして長年のスポンサーであるアディダスも、ただのスポーツ用品メーカーではない。

ドイツサッカー協会(DFB)は3月21日、代表ユニフォームのサプライヤーをドイツのアディダスからアメリカのナイキに変更する契約を結んだと発表。これが政治色さえ帯びた国内の怒りに火を付けた。アディダスは70年以上にわたってドイツ代表のパートナーだった。

2027年に始まるナイキとの契約は、年間約1億1000万ドルと報じられている。アディダスとの契約額の約2倍だ。DFBは借入金があるほか、税金の未納をめぐる訴訟も抱え、ナイキのオファーを断る余裕はなかった。

しかしDFBが「透明で無差別な入札手続き」の結果だと淡々と述べたプレスリリースを出すと、国内に反発が渦巻いた。政治家も党派を超えて、DFBの決定を批判した。

「代表チームは(アディダスの象徴である)3本線でプレーする。これはボールが丸く、サッカーの試合が90分であることと同じくらい自明だ」と、バイエルン州の保守派の州首相マルクス・ゼーダーはX(旧ツイッター)に投稿。アディダスとの決別は「理解できない」と嘆いた。

マルクス・ゼーダー州首相の投稿

ヘッセン州のボリス・ライン州首相は、ユニフォームの胸にあるワールドカップ(W杯)の優勝回数を示す4つの星のそばには、アディダスの3本線のロゴがあるべきだと発言。緑の党に所属する連邦政府のロベルト・ハベック副首相も「3本線のないドイツのユニフォームなど想像し難い」と述べ、ナイキの「スウッシュ」に替えるのは「ドイツのアイデンティティーの一部」を捨てることだと語った。

ボリス・ライン州首相の投稿

ドイツにおいてサッカーの代表チームは、最強の国家的シンボルだ。そしてアディダスはドイツの地方の同族会社から世界市場を制するまで成長し、経済大国となった戦後のドイツを多くの意味で体現している。行きすぎた愛国心を嫌うドイツだが、スポーツと輸出は国民的アイデンティティーの2本柱と言っていい。

ドイツの伝説を支えた

アディダスはドイツサッカーの伝説と深く結び付いている。1954年にスイスで開かれたW杯の決勝で、圧倒的に優位とみられていた強豪ハンガリーに西ドイツ(当時)が逆転勝ちした試合は「ベルンの奇跡」と呼ばれる。この勝利を支えたといわれるのが、アディダスの創業者アディ・ダスラーが開発した革新的なシューズだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米USTR代表、中国の貿易合意履行「正しい方向」

ビジネス

ベトナム、1-11月対米貿易黒字が過去最高 前月比

ワールド

EUの政策は米欧協力損なう、米国務副長官がXへの制

ビジネス

スイスUBS、1万人規模の追加削減の可能性=報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中