最新記事

古典芸能

【歌舞伎の歴史】あまりの人気ゆえ、弾圧された時代もあった

2018年1月10日(水)17時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

平成中村座のドイツ公演の様子(2008年) Fabrizio Bensch-REUTERS

<江戸時代末期には弾圧を受けた歌舞伎は、明治に入ると再び底力を見せ始めた――。日本の古典技能は、時代と共にどのように移り変わり、人々に親しまれてきたのか>

400年以上前に生まれ、今なお、人々の注目を集める日本の総合芸術、歌舞伎。とはいえ、歌舞伎役者たちの活躍を見聞きすることはあっても、歌舞伎の基本や"楽しみ方"をきちんと知っている人はどれだけいるだろう。

喜怒哀楽、美しいもの・汚いもの、そうした人間臭さの全てが詰まっていて、粋や義理人情など、あらゆるところに美学がちりばめられている。

そんな歌舞伎をあらゆる角度から味わい尽くすのに役立つ『Pen BOOKS そろそろ、歌舞伎入門。』(ペン編集部・編、CCCメディアハウス)から、歌舞伎の歴史に関する記事を2回に分けて抜粋する。

[語り手]
松井今朝子(作家)
松竹に入社し、歌舞伎の企画・制作に携わる。退社後は故・武智鉄二氏に師事し、歌舞伎の脚色・演出・評論を手がける。現在は小説家として活躍。2007年に『吉原手引草』(幻冬舎刊)で直木賞受賞。

※前編:【歌舞伎の歴史】400年前、1人の女性の念仏踊りから始まった

◇ ◇ ◇

時代とともに変わってしまう面もあれば、普遍的な側面もある。その変幻自在さが歌舞伎の面白さだ。

「歌舞伎には定本がないんです。そこがシェイクスピア(8)とは決定的に違う点。脚本主義ではなく、演出主義。歌舞伎=演出ともいえます。そして演出を伝えるのが役者です。西洋では、芝居は戯曲が本質になるのでしょうが、日本というのは本質の国ではないのです。あくまでも周縁に価値をおく。ディテールに優秀なものを残し、外側、表面、外面に対して力を発揮する民族です。それは文化を全部外から取り入れた"周辺の国"だから。本質を問い詰めることなく、曖昧にしておく。常に外から文化を取り入れて、それがなぜなのかということを考えない。脚本よりも演出が肥大化している歌舞伎は非常に日本的といえます」

戯曲至上主義ではないから役者に合わせて演出を変えるのも珍しくない。

「有名な五代目幸四郎(9)という人は鼻がとても高かったので、横見得を切った。個人をいかに美しく見せるかという演出法です。役者が自分のいいところを見せる動作はかなり個人に委ねられている。それが型となり、その時代の様式として残っていくのです」

観客との相互作用によって変貌を遂げた歌舞伎だが、そのあまりの人気ゆえ、弾圧の憂き目を見る時代もあった。

「江戸時代末期、天保の改革(10)で歌舞伎は非常に貶められました。政治家と芸能人は人気商売ですから、為政者にとっては怖い存在。この時代の歌舞伎役者は人間扱いされないほど弾圧を受けました。シェイクスピアが王侯貴族のパトロナイズを仰いだのとは正反対で、歌舞伎は武家政権から愛でられることはなかった」

しかし明治維新で時代が変わると、歌舞伎は再びその底力を見せ始める。

「九代目團十郎(11)ら明治以降の役者が上昇志向だったのは、前の時代の反動だったのでしょう。歌舞伎というのは犯罪者のドラマ、悪党がヒーローになる物語が多いんですね。女に狂って落ちぶれたり天下を覆そうと企む大悪党が主人公になったり。社会的にあまり肯定されない人の話。悪を美しく見せるのが歌舞伎の基本なんです」

時代を反映するのが歌舞伎であるならば、現代の芝居にもまたいまの気分が反映されているのだろうか。

「ストーリー自体は変わらなくとも、微妙な空気感は役者の演技に表れていると感じます。コクーン歌舞伎(12)や六本木歌舞伎(13)はいまの世の中の空気感をよく伝えているのでは」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イランと米国、停戦・最終合意の2段階紛争終結案を受

ワールド

印サービス業PMI、3月は57.5に低下 中東戦争

ビジネス

村田製、不正アクセスで一部情報流出 生産・販売活動

ワールド

商船三井のLPG船がホルムズ海峡を通過 日本関連3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中