最新記事

世界経済

政府はインフレによる利益で債務危機を回避せよ

NO IMMINENT CRISIS

2022年10月17日(月)16時00分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)

イギリスは巨額の財政赤字が数年続いても持続不可能になることはなさそうだが、問題は債務の持続可能性ではなかった。

イギリスの年金基金は、国債価格の乱高下を避けるためにデリバティブ(金融派生商品)に投資していた。資産価格が下落すると、デリバティブ契約の担保として差し出さなければならない基金の額が増えて、現金を調達するために資産を売却せざるを得ない。これにより資産価格がさらに下落して、担保の必要性がさらに高まった。

ただし、イギリスの金融不安は一時的な流動性の問題を反映したもので、イングランド銀行(英中央銀行)は緊急の国債買い入れで収束させた。

イタリアやアメリカなど多額の債務を抱える国は、予想外のインフレで多大な恩恵を受けているが、債務リスクは消えていない。

これらの国々はインフレによる利益を、さらなる債務削減の機会と捉えるべきだ。

もっとも、そうした先見的な行動を取れる政治体制なら、そもそも債務がここまで高い水準になることはなかったはずだ。長期的な安定を確保する唯一の方法は、政策立案者がこれまでのような短期的な視点は通用しないと理解することだ。

©Project Syndicate

Column_DanielGros.jpgダニエル・グロー
DANIEL GROS
ドイツ出身の経済学者。IMFのアドバイザーなどを経て、現在はシンクタンク欧州政策研究センター研究部長。主な研究テーマはEUの経済政策で、欧州議会への助言も行う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中