最新記事

トラベル

温暖化対策で企業が出張削減 対応迫られる航空業界

2021年10月18日(月)11時36分
イエメン・サヌア上空を飛ぶ飛行機

大企業が、出張に伴って発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減する方法を模索する中で、航空各社はドル箱であるビジネスクラス利用が大打撃を受けるのではないかと身構えている――。写真はイエメン・サヌア上空を飛ぶ飛行機。2011年1月撮影(2021年 ロイター/Khaled Abdullah)

大企業が、出張に伴って発生する二酸化炭素排出量を大幅に削減する方法を模索する中で、航空各社はドル箱であるビジネスクラス利用が大打撃を受けるのではないかと身構えている――。このような状況が、業界幹部や専門家の発言から見えてきた。

HSBC やチューリッヒ保険 、ベイン・アンド・カンパニー、S&Pグローバル など複数の企業は、出張に伴う二酸化炭素排出量の最大70%を早期に削減する計画をすでに発表済みだ。

気候変動につながる間接的な二酸化炭素排出量を削減するよう環境保護団体や投資家からのプレッシャーが高まる中、「カーボン予算」の導入を検討する企業もある。

出張にともなう二酸化炭素排出量の約90%は航空機での移動によるものだ。したがって、削減目標を設定しようという企業が真っ先に手をつけるのも、この部分ということになる。

航空産業の側では、先週ボストンで開催された会合において、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」の目標を打ち出した。だがこれでは、企業が出張に伴う排出量の削減目標を達成する時期よりも数十年先になる。

「航空会社には厳しい状況であり、対応していく必要がある」と語るのは、ロンドンを本拠とするスラスト・カーボンの共同創設者であるキット・ブレナン氏。スラスト・カーボンでは、S&Pをはじめとするクライアントに「カーボン予算」に関するアドバイスを提供している。

ブレナン氏は、「とても奇妙な話だが、これから生じると思われるのは、ビジネスクラスとして与えられる特典が座席とは関係なくなるという、ビジネスクラスの別売りが進むことだ」と述べる。特典とはつまり、空港のラウンジや食事のグレードアップなどだ。「結局のところ、二酸化炭素排出量の問題は、ビジネスクラスの座席が航空機内でどれだけの面積を占めているかということだから」

世界銀行が行った研究によれば、旅客機で移動する場合、ビジネスクラスを利用するとエコノミークラスより最大で約3倍の二酸化炭素を排出することになる。ビジネスクラスの座席はそれだけ多くの面積を占め、空席率も高いからだ。

すでに始まった変化

国際航空運送協会(IATA)によれば、パンデミック前、世界全体の国際航空旅客のうち約5%がエコノミーより上のクラスで、国際航空収益の30%を占めていた。

パンデミックに関連して出張が減少しオンライン会議へと移行した結果、多くの企業が、出張方針の再設定によるコスト削減を実現した。

コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーで持続可能性(サスティナビリティー)最高責任者を務めるサム・イスラエリット氏によれば、ベインではオフィスや業務対象地域におけるカーボン予算の評価を進めており、今後5年間で出張に伴う従業員1人あたりの二酸化炭素排出量の35%削減につなげようとしているという。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米大統領選資金集め、4月はトランプ氏が初めてバイデ

ビジネス

英GSK「ザンタック」、発がんリスク40年隠ぺいと

ビジネス

アストラゼネカ、シンガポールに15億ドルで抗がん剤

ビジネス

BMW、禁止対象中国業者の部品搭載した8000台を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中