最新記事

米中対立

バイデン大統領誕生でもトランプによる対中関税は継続か 難しい利害調整

2020年9月12日(土)18時56分

米大統領選の民主党候補のバイデン前副大統領はこれまで、同盟国にも敵対国にも関税を課すトランプ大統領の通商政策を「有害」「見境ない」「破滅的」などの言い回しで批判してきた。写真は4日、デラウェア州ウィルミントンで撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

米大統領選の民主党候補のバイデン前副大統領はこれまで、同盟国にも敵対国にも関税を課すトランプ大統領の通商政策を「有害」、「見境ない」、「破滅的」などの言い回しで批判してきた。しかし、自身が大統領になっても、トランプ氏の導入してきた幾つかの政策は続けることになるかもしれない。

共和党は自由貿易や均衡予算などの伝統的な党の目標をほぼ捨て、トランプ氏の「米国第一主義」を擁してきた。これまで自由貿易を支持し、しかし異なるアプローチを求める声にも調子を合わせてきたバイデン氏にとっても、待ち受ける仕事は簡単ではない。

バイデン氏の支持母体のうち、労組は雇用保護とインフラ投資を求め、進歩派は気候変動問題、薬価引き下げ、人権問題などへの取り組みを求める。関税引き下げと、対中貿易関係の混乱を緩和することを強く願う米国の農家や企業の声にも直面している。

相反する利益の錯綜ゆえにバイデン氏は様子見姿勢を取ることになり、トランプ氏から引き継ぐことになる諸関税の多くは何年も維持される可能性がある――これが元職や現職の政策顧問やロビイストや通商アナリストの見立てだ。

政権獲得でも手足縛られる懸念

シラキュース大教授でピーターソン国際経済研究所上級研究員でもあるマリー・ラブリー氏は「バイデン氏がこうしたさまざまな相対立する勢力のバランスをどう取るのかは確かではない」と述べた。

米税関・国境警備局のデータによると、トランプ政権が2018、19年に中国製品に課した3700億ドル(約39兆2200億円)(訂正)相当の一連の関税は、米国の輸入業者に総額約616億ドルの負担を強いた。これが国内製造業者の競争力を損なう原因になったと批判されている。

鉄鋼、アルミニウム、洗濯機、太陽光パネル、欧州製品などへの制裁関税による税収は9月2日までで総額122億ドルだ。

昨年の米国の対中貿易赤字は縮小したが、米商務省が3日発表した7月の貿易赤字額は636億ドルと、12年ぶりの高水準に急拡大。この約半分が中国だった。

専門家によると、バイデン大統領が誕生しても、結局は手足を縛られる形になる可能性がある。

オバマ政権で財務次官として経済問題で対中交渉に当たったネイサン・シーツ氏は「バイデン氏が大統領に就任した場合で、その後半年から1年で取り得るシナリオが読めない。今の政治的環境は、左派からであっても右派、中道派からであっても、バイデン氏に対中強硬姿勢を求めようとしている」と語る。

自由貿易から公正な貿易へ

バイデン氏は約30年の議員生活で自由貿易を支持してきた。グローバル化の強化は繁栄の道と見なされていた時代だ。同氏は1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟をいずれも支持した。

副大統領としても、オバマ政権がアジアでの中国の影響力拡大への対抗策とした環太平洋経済連携協定(TPP)の熱心な提唱者だった。

自由貿易を擁護するこうした姿勢はまさに、トランプ氏がバイデン氏に対し「中国に弱腰」で、米国の雇用が低賃金の国々に流出するのを許していると攻撃する材料だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中