最新記事

米中貿易戦争

米中通商協議、「自由貿易」求める中国と「政府介入」求めるトランプが対立

2019年10月30日(水)16時00分

トランプ米大統領は中国に対し、米農産品の大規模購入を確約するよう迫ってきたが、米中通商交渉に詳しい複数の関係者によると、中国がこの要求に抵抗していることが交渉の難航を招く主な要因になっている。写真はノースダコタ州で収穫された大豆。8月6日撮影(2019年 ロイター/Dan Koeck)

トランプ米大統領は中国に対し、米農産品の大規模購入を確約するよう迫ってきたが、米中通商交渉に詳しい複数の関係者によると、中国がこの要求に抵抗していることが交渉の難航を招く主な要因になっている。

トランプ氏はこれまで、中国が購入する米農産品が年間500億ドル規模に達する可能性があると公言している。これは2017年の購入額の2倍以上の規模だ。

米国の交渉団は、米農産品の大規模購入を求める姿勢を崩していないが、中国側は大規模購入や期間に関する確約は拒んでいる。中国の輸入業者が市場の状況を踏まえて購入額を決める裁量が認められるよう望んでいるからだ。

中国国有企業の幹部は「中国は国民が必要としない商品を多く購入したり、需要がない時に特定のものを買うことは望んでいない」と説明。米農産品が「集中的に中国に流れ込めば、国内市場で消化するのは難しいかもしれない」と続けた。

農産品の過剰供給は国内価格に大きな悪影響を及ぼし、「需給バランスを崩す」と懸念を示した。

さらに、豚コレラのまん延で豚の飼育数が減り、米農産品のなかでも最も輸入量が多く、豚の飼料になる大豆の需要も大幅に低下した。

国有企業を含む中国の農産品輸入業者は通常、最も価格が安い輸入元から仕入れる。米国の要求を飲み、価格上のメリットや国内需要の状況に関係なく大規模な購入を実行するには、中国政府の介入が必要となる。

ただ、米中貿易戦争で米国の要求の核心となってきたのは中国が市場原理を大胆に取り入れ、国有企業への補助金や外資企業よりも国内企業を優遇する政策を停止すべきというものだった。

一部の貿易専門家は、明らかに状況が逆転していると指摘する。

オバマ前政権時代に米通商代表部(USTR)代表代理(訂正)を務めたミリアム・サピロ氏は、「米政府は通常、農産品輸出の価格や時期を管理することはない。これは民間部門の役割だ。ただ大統領は今回、管理する措置を取った」と指摘した。

ニコール・ラム・ヘイル元米商務次官補は「中国が抵抗し、『市場に決めて欲しい』と主張しているのは皮肉だ」とコメント。トランプ氏が要求している大規模な農産品購入は市場をゆがめる要因になるとした。

米政府当局者は29日、米中通商協議を巡る「第1段階」の合意文書署名が、チリで来月開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に間に合わない可能性が出てきたと明らかにしている。

*英文の訂正により、第10段落の「米通商代表部(USTR)次席代表」を「米通商代表部(USTR)代表代理」に訂正します。

[ワシントン/北京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191105issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

10月29日発売号は「山本太郎現象」特集。ポピュリズムの具現者か民主主義の救世主か。森達也(作家、映画監督)が執筆、独占インタビューも加え、日本政界を席巻する異端児の真相に迫ります。新連載も続々スタート!


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪、中国軍機の照明弾投下に抗議 南シナ海哨戒中に「

ワールド

ルーブル美術館強盗、仏国内で批判 政府が警備巡り緊

ビジネス

米韓の通貨スワップ協議せず、貿易合意に不適切=韓国

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中