最新記事

経済

米中対立で世界貿易が縮小、リーマン危機後最低に OECDが成長率見通し引き下げ

2019年9月20日(金)19時00分

経済協力開発機構(OECD)が19日に世界の成長率見通しを下方修正した背景には、世界の貿易量の収縮があり、米中貿易摩擦の影響が地球規模に拡散している構図がある。写真は中国の天津港。2018年11月8日撮影(2019年 ロイター/提供写真)

経済協力開発機構(OECD)が19日、世界の成長率見通しを下方修正した。その背景には、世界の貿易量の収縮があり、米中貿易摩擦の影響が地球規模に拡散している構図がある。日銀も19日に公表した声明文で海外経済リスクの高まりに言及したが、貿易量の縮小に歯止めがかからないと、日本経済も年末から年明け以降、減速感が強まりかねない。政府が策定すると見られる経済対策の規模が、膨らむ可能性も出てきた。

東京市場はあまり注目しなかったが、OECDが公表した2019年の世界経済成長見通しは2.9%と08年─09年のリーマン危機直後以降で、最低となる。

昨年の実績値の3.6%から大幅に低下し、世界経済の後退の節目と見られている3%を割り込む予測は、最近の世界経済の急減速を鮮明にしていると言えるだろう。

OECDのチーフエコノミスト、ローレンス・ボーン氏は、貿易摩擦が当初の見通しの一時的な要因から、長期の新たな貿易関係として存在してきたことを大きな原因として挙げる。

世界貿易動向をフォローしているオランダ経済政策分析局によると、世界貿易の総量は2018年10月を直近のピークとして下がり続け、19年6月の指数は123.2と前年6月の124.9から1.4%低下している。

OECDのボーン氏は、こうした貿易摩擦の悪影響が、企業の投資抑制に結びついているとも指摘している。

OECDによると、貿易摩擦の当事国である米国の成長率が今年が2.4%、20年が2.0%に減速。中国は今年が6.1%、20年は5.7%に減速すると予想した。

貿易縮小継続なら、日本の経済対策規模膨張も

日銀も19日公表の声明文で「このところ、海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられる」と指摘した。

ただ、日銀は消費や設備投資が直ちに腰折れするとは見ておらず、内外の経済情勢を注視するスタンスとみられる。

とは言え、世界の貿易量の縮小傾向に歯止めがかからない場合、日本経済にとっても、中期的に悪影響が及びかねない。

OECDは今年の日本の成長率を5月時点の0.8%から1.0%に上方修正したが、20年は0.6%に減速すると予測する。

政府は、10月の消費増税後の経済状況を見つつ、必要と判断すれば、適切に対応するとの姿勢を示してきた。

外需減速が一段と声明になった場合、年末にも検討を進める予定だった補正予算の編成を中核にした経済対策の規模を膨らますことも、選択肢の1つになるだろう。

OECDの経済見通しは、日本にとっても「警笛」になったのではないか。

田巻一彦

[東京 20日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



190924cover-thum.jpg※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。



ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中