最新記事

経済

サルコジが推す「豊かさ」新指標

2009年9月25日(金)14時21分
ラーナ・フォルーハー(ビジネス担当)

 GDPは経済の規模や動向を示すときに用いられる重要な指標。だが、GDPを用いた政治家や専門家の経済論議と、人々が日常的に感じる経済的な豊かさの間にはどこかギャップがある。

 そこでフランスのサルコジ大統領は約1年半前、GDPに代わる新しい経済指標の考案を依頼した。頼んだ相手はノーベル賞受賞者のジョセフ・スティグリッツをはじめとする著名な経済学者たち。その報告書が9月14日、パリで発表された。

 世界的な経済危機が起きたのはこの研究が始まってからだったこともあり、豊かさを測る新しい指標作りには注目が集まった。

 「実績重視の社会では数値的指標が重要になる。数値によって行動が左右されるようになる」とスティグリッツは語った。「数値的指標が誤っていると、間違った方向に向けて努力することになる。GDP拡大だけを目指すと、暮らし向きが悪くなる恐れもある」

 科学と哲学を融合させて作られた約300ページの報告書では、さまざまな勧告がなされている。経済の評価に健康や教育、安全など幅広い要素を含めること。所得格差や持続可能性が経済に与える影響を測る方法を考案すること。次世代に引き継がれる価値も現在の経済の評価に含めること──。

 逆に報告書が避けているのは、新しい豊かさの測定方法を安易に提示することだ。報告書を執筆した経済学者たちは、これが最終的な形ではなく、議論のたたき台にすぎないことを認めている。だがサルコジは、この研究成果を世界中に宣伝するつもりだ。

 「フランスはこの報告書をもとに世界中で議論をスタートさせる。新しい経済、社会、生態秩序の構築を目指すあらゆる国際会議の議題にする」とサルコジは発表の場で語った。

 さらにサルコジは、「フランスはこの勧告に基づく統計システムの修正をあらゆる国際組織に求めていく」とし、「フランスは最終的に独自の統計システムを採用するだろう」と熱弁を振るった。

 スティグリッツは米クリントン政権で経済顧問を務めていたとき、同様の提案をしたが「大きな政治的抵抗に遭って挫折した」経験がある。彼はサルコジという予想以上に熱い後援者を得たようだ。

 サルコジが熱心なのは当然かもしれない。新しい指標を使えば、フランス経済の健全度は今よりずっと高くなるはずだ。

[2009年9月30日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、アラスカで3者会談にオープン ウクライ

ビジネス

米、エヌビディアに中国向け「H20」輸出許可付与=

ワールド

欧州、ウクライナの利益守る必要性強調 米ロ会談控え

ワールド

アラスカにゼレンスキー氏招待も、米が検討=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段の前に立つ女性が取った「驚きの行動」にSNSでは称賛の嵐
  • 3
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中印のジェネリック潰し
  • 4
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 5
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 9
    メーガン妃の「盗作疑惑」...「1点」と語ったパメラ・…
  • 10
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中