Picture Power

写真の新たな飛躍を感じて---日本の新進作家たち

elan photographic

Photographs by 日本の新進作家 vol.10より

写真の新たな飛躍を感じて---日本の新進作家たち

elan photographic

Photographs by 日本の新進作家 vol.10より

<our face>より 《アニメのコスプレの少女たち34人を重ねた肖像/台北のストリートで》 2009年(2010年プリント)©Ken Kitano

 日々どれほどの写真に出会うだろう。目に入った膨大な量の写真が発する情報の多くは、私たちに浅い記憶を植え付け、あるいは何も残さずに過去へと流れていく。そんな写真に対しての受動的な態度が揺さぶられるのは、東京・恵比寿の東京写真美術館で開催中の「日本の新進作家 vol.10  写真の飛躍」(1月29日まで)だ。目の前に見えてるものは一体何か、今ここにある写真を能動的に「見る」ことを求められる。

 北野謙(上のスライドショー1番目)は世界各地に赴いて撮影したたくさんのポートレートを、142センチ×178センチの大きな1枚の印画紙に1人ずつ重ねて焼き付ける。台湾のコスプレ少女、インドのヒンズー教徒、バングラデシュのムスリム女性などカテゴリーごとの現実の集積物は、等身大ほどの新たなポートレートととして像を結び、幾重もの瞳が発する強い視線、溶け合った背景は、多様な文化や社会の中に生きる多数の人々の存在を浮かび上がらせる。

 春木麻衣子(2と3)は、作品名に「ポートレート」という言葉を入れているが、通常私たちが思い浮かべる肖像写真とはかけ離れたものを提示する。撮影時に露出を極端にアンダーまたはオーバーに設定することで、画面のほとんどの部分を黒く落としたり白く飛ばしたりし、目で見えていた情景にはあったはずの視覚的要素を削ぎ落としていく。この手法で春木は、写真とは人の何を写すのかを問い、見えたと思っていることと、見て認識することとは異なるのではないかと語りかける。

 数千枚の写真のピースを巨大なキャンパスの上に一枚一枚地図に即して張り合わせて街を再構築する西野荘平(4)、ピンホールカメラの佐野陽一(5)、フォトグラムの添野和幸(6)−−各々の作品からも心地よい思索の時間が与えられる。 

 写真に刺激された思考回路は何を見るのか。明日同じ写真の前に立ったら、今日とは違った何かを見るようで胸が騒ぐ。

 関連リンク;
 東京写真美術館で開催中の「日本の新進作家 vol.10  写真の飛躍」

――編集部・片岡英子


MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中