Picture Power

閉鎖都市に残る冷戦期の面影

Dust

Photographs by Nadav Kandar

閉鎖都市に残る冷戦期の面影

Dust

Photographs by Nadav Kandar

「アラル海I」 (かつては軍関係者の住宅だった) カザフスタン 2011年

 ロシアに近いカザフスタン東部の2つの町。そこでは古い長距離ミサイルや崩れた建築物の跡が、現代文明から取り残されたかのようにひっそりとたたずんでいる。

 写真家のナダフ・カンダーがこうした「遺跡群」を撮影した町プリオゼルスクとクルチャトフは、外部からの立ち入りや居住が制限された「閉鎖都市」だ。冷戦時代のソ連では軍事的な秘密を守るため、こうした都市がいくつも存在した。冷戦が終わってからもしばらくたつまで、地図上に載せられることさえなかった。

 クルチャトフは、かつて核兵器の開発が進められていた場所だ。付近では何百という核実験が行われ、放射能汚染による周辺住民への健康被害が秘密裏に研究対象となっていた。今では朽ち果てた廃墟が点在する荒れ地だが、カンダーの目には幻想的な風景そのもの。夢中で撮影している最中に放射線測定器の音で現実に引き戻されることが何度もあったという。

 「絵画的な景色の美しさではなく、人の痕跡が感じられる風景にしか興味はない」とカンダーは言う。今ではほとんど訪れる人のいないこれらの町にも、冷戦という人類の悲しい痕跡が確かに残されている。

Photographs from "Dust" (Hatje Cantz) by Nadav Kander, Courtesy Flowers Gallery
写真集「Dust」(Hatje Cantz社刊)より

<本誌2014年7月29日号掲載>


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