最新記事
シリーズ日本再発見

【緊急ルポ】新型コロナで中国人観光客を失った観光地の悲鳴と「悟り」

2020年03月18日(水)17時00分
西谷 格(ライター)

中国人観光客が大挙して押し寄せ買い物をしていた銀座(上)に彼らの姿はない MASSIMO RUMIーBARCROFT MEDIA/GETTY IMAGES

<中国バブルを謳歌した観光業者が払う爆買いの代償とは。本誌「観光業の呪い」特集より>

中国の農村はまだまだ発展の余地がある。故に、中国人観光客はこれからも日本に来て、旺盛な消費活動を続けるに違いない──。かつてバブル時代に「土地の値段は上がり続ける」と信じて疑わなかった人々と同じ過ちを、われわれは犯していたのかもしれない。
20200324issue_cover200.jpg
新型コロナウイルスの影響で瀕死状態となった日本の観光地を巡ると、そんな教訓が見えてきた。

筆者は、爆買いブームが健在だった2017年夏、中国人観光客のツアーガイドとして東京近郊の現場を巡った経験がある(詳細は『ルポ中国「潜入バイト」日記』〔小学館新書〕を参照)。それらの観光地は今どんな状況にあるのか。日本政府の要請による一斉休校が始まる直前の2月末、東京とその近郊の観光地を歩いた。

まず向かったのは、東京・新宿の大型免税店。当時は大型バスがビルに横付けされ、大量の中国人観光客を周囲の日本人がけげんそうに眺めているのが、おなじみの光景だった。平日の午後、店内に足を踏み入れると明らかに様子がおかしい。

20人ほどの店員は一様に気だるそうにしていて、立っている者は半分もいない。大半はレジ近くの椅子に座り込み、ショーケースに完全に突っ伏して寝ている者や、テーブルの上にヒマワリの種のカラを積み上げている者までいた。中華圏ではおなじみのおつまみだ。見たところ中国人店員がほとんどだが、今や観光地や小売店では中国人スタッフの姿は決して珍しくない。電気代節約のためか、店の奥は照明が落ちて薄暗い。

中国本土では時折こうした退廃的な雰囲気の商業施設を目にすることがあるが、まさか日本の繁華街で見るとは。客が来るとは思ってもいなかったのだろう。「異変」を察知した女性店員が驚いた顔をして駆け寄り、詰問口調の中国語で聞いてきた。

「何の用ですか? うちは予約が必要なんですが!」

もともと個人客はほとんど来ないため、この時期の単独客は不自然に思われたようだ。ちょっと店内の様子が見たいと言って歩き回ったが、ずっと後を付いてくる。BGMはなく、シーンとしたなか周囲の視線を一身に浴びていて、気まずい。足早に店を後にしたが、人件費とビル家賃を垂れ流しているだけで、開店休業もいいところだ。

続いて、東京の人気観光地・浅草に向かう。土産物店が並ぶ仲見世通りもすいていて、非常に歩きやすい。観光客はいるが、目算でいつもの半数にも満たない数だ。和菓子屋で店番をしていた日本人女性が言う。「最近まであふれんばかりに旅行客が来ていたんですが、中国が団体旅行の規制をした1月末から、パッタリと客足が途絶えました」。苦笑いを浮かべており、まだ心にどこか余裕があるように見えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中