コラム

「国を救うヒーロー」になった極右TikTokポピュリストは、なぜルーマニア大統領になれなかった?

2025年05月20日(火)18時25分

やり直し大統領選の1回目投票で親欧州統一候補が3位に終わり、決選投票に進めなかったことからルーマニアのマルチェル・チョラク首相が辞意を表明。彼が率いる社会民主党(PSD)が離脱したことから親欧州連立政権が崩壊するなど、ルーマニア政治はカオスに陥っていた。

ルーマニアで極右のAURが台頭する理由は経済、社会、政治、歴史が複雑に絡み合う。若く教育を受けた労働者が他のEU加盟国に流出する一方で、取り残された農村部や低所得層の貧困が既存政党への不満を充満させ、コロナ後のエネルギー危機と生活費危機で一気に爆発した。

「TikTokポピュリスト」の異名を取るシミオン氏

共産主義体制崩壊後、常態化する政治腐敗により既存政党の信頼は失墜。ルーマニアでは正教会が大きな影響力を持っているため、AURは「伝統的な家族の価値観」を掲げ、性的マイノリティーLGBTQ+の権利、EUの干渉に反対するキャンペーンを展開した。

シミオン氏は「TikTokポピュリスト」の異名を取り、SNSで扇動的メッセージを発信。神・国家・家族といった価値観を強調する動画を拡散し、テレビや新聞ではなくSNSを情報源にする若年層をターゲットに「祖国を救うヒーロー」として自己を演出した。

汎欧州のニュースメディア「Voxeurop」のルーマニア人常連投稿者アニタ・ベルナッキア氏は「ルーマニアには共産主義体制崩壊後も民族主義政党が存在した。AURには1930年代のルーマニア・ファシズムへのノスタルジーがある。それが今回、表面化した」と指摘する。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

自民新総裁に高市氏:識者はこうみる

ワールド

自民党総裁に高市氏、初の女性 「自民党の新しい時代

ワールド

女性初の新総裁として、党再生と政策遂行に手腕発揮を

ワールド

高市自民新総裁、党立て直しへ「ワークライフバランス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 5
    謎のドローン編隊がドイツの重要施設を偵察か──NATO…
  • 6
    「吐き気がする...」ニコラス・ケイジ主演、キリスト…
  • 7
    「テレビには映らない」大谷翔平――番記者だけが知る…
  • 8
    墓場に現れる「青い火の玉」正体が遂に判明...「鬼火…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 5
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 6
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story