コラム

「ジョコビッチは愚か者だ」豪入国拒否問題で英名門紙がスター選手をバッサリ

2022年01月07日(金)20時24分

英紙フィナンシャル・タイムズのヘンリー・マンス記者は今回の騒動について「ジョコビッチ選手は愚か者だ」とバッサリ。ジョコビッチ選手がかつてインスタグラムでヤブ医者と討論し「祈りと感謝によって最も有害な食べ物や最も汚染された水を最も癒される水に変えることができる人々を知っている」と主張したことも例に挙げている。

ジョコビッチ選手はベオグラードでチャリティ・エキシビションを主催、自身を含む数人の選手がコロナに感染し、社会的距離を十分に取らずに感染を広げたと批判されたことがある。マンス記者は「このときも彼は愚か者だった」と非難する。

英紙デーリー・テレグラフのテニス担当サイモン・ブリッグス記者は「彼のセルフイメージの根底には従来の医療に対する懐疑的な考えと代替医療への熱意がうかがえる。これらは簡単に捨てられるものではない」とジョコビッチ選手のスピリチュアリズムと自己治癒力への信念を指摘する。

ジョコビッチ選手の落ち度

筆者の周りにもスピリチュアリズムと自己治癒力への信念からワクチン接種を拒否する人がいる。しかしコロナに感染して病院の集中治療室(ICU)に運び込まれてくる重症患者の最大9割はワクチンを打っていない人だ。ごくまれに副反応を起こして死ぬこともあるワクチンだが、「個人防衛」にも「社会防衛」にも絶大な効果があることはすでに証明済みだ。

ワクチン接種を義務化するかどうかは国によって異なる重要な政治判断だ。しかしいったん認めた入国ビザを国内世論に突き上げられたからと言って突然、取り消し、劣悪な隔離ホテルに放り込むのはいかがなものか。ジョコビッチ選手は強制送還されたら、二度と全豪オープンに参加することはないかもしれない。

ジョコビッチ選手が何を信じようと信じまいが本人の自由である。しかし落ち度があるとしたらこれまでワクチン接種の有無をあいまいにしてきたにもかかわらず、接種免除が認められたとたん「未接種」をインスタグラムで公にしてしまったことだ。注目度の高いトップスリートが医学的に根拠のない反ワクチン主義を広める行為は倫理的に許されないだろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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