コラム

菅首相が「国際公約」にしてしまった東京五輪の現実味 日米首脳会談でも言及

2021年04月17日(土)22時09分
ホワイトハウスでバイデン大統領と記者会見に臨む菅首相(4月16日)

ホワイトハウスでバイデン大統領と記者会見に臨む菅首相(4月16日) Tom Brenner-REUTERS

<このうえ「五輪中止」に追い込まれれば、日本の国力低下を世界に印象付けてしまう恐れがある>

[ロンドン発]菅義偉首相とジョー・バイデン米大統領は16日、米ワシントンのホワイトハウスで会談し、中国が圧力を強める台湾海峡や新疆ウイグル自治区の弾圧問題について、3月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で合意された立場を確認するにとどまった。共同声明のポイントは次の通りだ。

・アメリカは日米安全保障条約5条(対日防衛義務)が尖閣諸島に適用されることを再確認。日本の施政を損なおうとする一方的な行動に反対
・台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す
・香港と新疆ウイグル自治区の人権状況への深刻な懸念を共有

安倍晋三前首相とドナルド・トランプ前大統領とは異なり、政治的パフォーマンスなし、サプライズなし、事務方が準備した台本通りの首脳会談となった。波乱万丈、予測不能なトランプ時代は幕を下ろし、堅実で安心できるバイデン時代が到来したことを印象付けた。

東京五輪・パラリンピックについて菅首相は共同記者会見の冒頭、こう表明した。

「世界の団結の象徴として開催を実現する決意であることを大統領にお伝えし、支持を頂いた」「WHO(世界保健機関)や専門家の意見を取り入れ、感染対策を万全にし、科学的・客観的な観点から安全・安心な大会を実現すべく、しっかりと準備を進めていく」

ロイター通信の記者に「公衆衛生の専門家が日本は五輪を開催する準備ができていないと言っているのに、五輪開催に向け進むのは無責任ではないか」と質問されたが、知ってか知らでか、菅首相はスルーした。菅首相はG7でも五輪開催の決意を表明しており、もはや「国際公約」になってしまった感がある。

日本の世論「五輪中止」は40%

今月、時事通信の世論調査で、東京五輪は「中止する」が40%と最も多く、「開催する」29%、「再延期する」26%となった。「中止すべき」は昨年12月21%、今年2月26%に増えている。コロナ感染が制御できない中、国民は、五輪は止した方がいいと考えているのに、菅首相は開催に向け突き進んでいる。

しかし、日本が独断で五輪を中止するわけにはいかない。昨年3月、国際オリンピック委員会(IOC)と東京五輪組織委員会はWHOの状況分析に基づき1年延期を決断した。その時、日本の1日当たり死者数は2人未満(7日平均)、現在は28人。コロナを制御したとはとても言えない状況だ。

昨年3月、WHOのテドロス・アダノム事務局長は「パンデミックは加速している」と警告した。今月16日には「1週間当たりの新規感染者数はこの2カ月でほぼ倍になっている。これまでで最も高い感染率に近づいている」と警戒を最大限に強めている。コロナによる死者は世界全体で300万人を突破した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

百貨店11月売上高、日中悪化の影響限定的 「協調精

ワールド

旧統一教会の韓鶴子総裁、初公判で起訴内容否認 「政

ワールド

韓国特別検察、ソウル市長を在宅起訴 政治資金法違反

ビジネス

中国の輸出規制強化、欧州企業3割が調達先変更を検討
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story