コラム

東京の経済成長率が低いのはなぜ?

2019年01月22日(火)13時30分

東京と地方の差は縮小しているということになるが… AlxeyPnferov-iStock

<地方と東京の格差が是正されたと単純に言っていい話ではない。経済発展の歴史から読み解けば、世界における日本経済の危機が浮き彫りになる>

都道府県ごとのGDP(国内総生産)統計で東京の成長率が著しく低いという結果が出ている。一部では東京の一極集中が是正されているとポジティブに捉える意見もあるようだが、必ずしも手放しで喜べる状況ではない。都道府県ごとのGDP推移について探った。

東京の1人当たり県民所得の伸び率はなんと42位

内閣府は、「国民経済計算」という形で日本全体のGDPについて四半期ごとに結果を公表しているが、都道府県ごとのGDPである「県民経済計算」についても年に1度、公表している。現時点では2018年の8月に公表された2015年度の数字が最新版である。

都道府県ごとのGDPは、基本的に全国のGDPと似たような手法を用いているが、作成自体は各都道府県が独自に行っており、使用する基礎資料などに違いがある。このため厳密には同一基準の比較ではなく、各県の数値合計も全国のGDPと多少のズレがあるが、状況分析において支障が出るレベルではない。

県民経済計算によると、2015年度における東京の実質GDP成長率は1.8%で、日本全体の数値である1.6%を上回ったものの、順位は19位とそれほど高くなかった。1人あたりの県民所得についても、絶対値では断トツの1位だが、伸び率は42位と低迷している。

経済紙が一連の統計について「東京の一極集中に異変」というタイトルで記事化したこともあって、ネットを中心にちょっとした話題となった。

あらゆるGDP統計に共通することだが、大きな流れをつかむには、1年ごとの数値だけでなく、過去からの推移を見る必要がある。2010年から2015年にかけての成長率を単純平均すると、もっとも成長率が高かったのは宮城県、2位は三重県、3位は岩手県、4位は群馬県、5位は愛知県だった。東京は21位となっており、東京の低迷は数年タームで見ても同じである。

一般的に、日本においては東京にすべてが集中しており、東京が日本の経済を牽引しているというイメージが強い。では、なぜ東京の成長率が低く、地方が高いという結果が出ているのだろうか。ヒントになるのは上位に入っている都道府県名である。

製造業の影響が極めて大きい

1位の宮城県と2位の岩手県は、多くの人が想像する通り、震災復興特需が関係している可能性が高い。特に宮城県には、震災直後から多くの人や資金が集まったこともあり、賃貸物件がほぼ満室という状況が続き、繁華街はかなりの活況を呈していた。2015年のランキングでは宮城県、岩手県が上位に入っていないことや、建設業の伸びが大きいことなどからも、復興事業による影響が想像できる。

復興需要は特殊事情といってよいのでこれを除外すると、注目すべきは三重県と愛知県である。これはトヨタ自動車など、愛知県を中心に展開する自動車産業の効果が大きいと考えられる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story