コラム

人民元切り下げから考える、注目すべき中国経済統計の話

2015年08月21日(金)10時54分

中国経済の実態は果たして(江蘇省の港湾地帯) China Daily-REUTERS


〔ここに注目〕輸出入額&電力消費量


 人民元の3度にわたる切り下げは、各国の市場に大きな衝撃を与えた。一連の通貨切り下げはひとまず終了しており、為替市場は落ち着きを取り戻しつつある。だが、株式市場の動揺は続いており、中国経済の実態は想像以上に悪いのではないかと懸念する声が少なくない。背景には、中国の経済統計に対する信頼性の問題がある。

 筆者は投資家として、各国の株式市場に投資をしてきた。中国市場は非常にダイナミックで多くのチャンスに溢れる一方、先進国と比較すると市場の透明性が著しく低い。それは経済全体についても同じで、中国の景気動向を判断する際には、GDP(国内総生産)をはじめとする各種統計の信頼性の低さについて、ある程度、織り込んでおく必要がある。今回は人民元切り下げを材料に、中国経済を見極めるポイントについて解説してみたい。

7%成長を本当にキープできているのか

 中国政府は、経済成長の目標を実質で10%台から7%前後に引き下げている。中国国家統計局による公式の発表では2012年以降、毎年7%台の成長率となっており、今年の4~6月期についても、かろうじて7%を維持した。もし7%の成長を継続しているのであれば、中国経済の先行きについてそれほど悲観する必要はない。成長率が落ちたとはいえ、この数字は日本の1970年代の水準であり、まだまだ余力が残っている可能性が高いからである。

 だが、現実には7%に達していないということになると話は別である。GDPを構成する要素(支出面)は大きく分けて、消費、投資(設備投資・公共事業)、輸出入の3つなのだが、中国が本当に7%の成長率をキープできているのかを検証するためには、各種統計の中で比較的信用度が高いものからチェックしていくという工夫が必要となる。

 最初に押えておくべきなのは輸出入である。先ほど中国の統計の信頼性は低いと述べたが、輸出入については相手国にも統計が存在するため、数字が大幅に違っているとは考えにくい。

 中国税関総署が発表した今年1月の米国向け輸出は約350億ドルだが、米国側の統計では約380億ドルとなっている。同じ月の日本向けの輸出は1.5兆円だが、日本側の統計では約1.8兆円である。統計上の誤差や、計上基準の違いなどから、ぴったり同じ額にはならないものの、おおよその水準は一致している。輸出入の統計は、額面通りに解釈してもよさそうだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナに兵器供与 50日以内の和平

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story